新劇通信簿

2006年の例会(私のコメント付き)


2月3月5月6月7月9月11月・12月

12月

題名・・・「飢餓海峡」
作者・・・水上勉
演出・・・木村光一
劇団・・・地人会
主演・・・島田歌穂
男性・とてもよかった=40%・よかった=49%・まあまあ=11%・よくなかった=0%ichi
女性・とてもよかった=35%・よかった=54%・まあまあ=10%・よくなかった=1%

「飢餓海峡」はこれまでにも映画・テレビになった有名な作品です。
一言で言うと、水上勉の世界にサスペンスドラマを足したような感じでした。
出だしは恐山のイタコに人々が死者の霊魂を口寄せしてもらうシーンから始まります。
そして主人公の杉戸八重は親の借金のため、大湊の町で娼婦をしていました。
八重は恐山で一人の男と出会います。
たまたまその男は八重の働く店にやってきました。そして八重に傷の手当をしてもらい
話をする内に、八重の優しさに心を動かされ、八重に5万円と言う大金を置いて帰って
しまいました。
同じ頃、津軽海峡で連絡船が沈没して多くの犠牲者が出る事件と北海道のある町でi
放火殺人によって町の大半が焼けてしまうという事件が起こっていたのです。
その事件を追っていた刑事が八重の元を訪れるのですが、犯人に心当たりは無いと
追い返してしまいます。
八重は男からもらった金の一部で自分の借金を返済し、今までの自分をやり直すために、
東京へ出ることにしたのです。初めは小料理屋に勤めていたのですが、いつの間にか
娼家に舞い戻っていました。そこで八重は新聞記事に載っていた男を、名前は違って
いたけれど、金をくれた人間ではないかと疑うのでした。
赤線廃止が決定し、自分の身の振り方を相談するため、その男に会いに行った八重は
・・・。
八重は疑うことを知らない天使のような女性として描かれていました。
島田歌穂さんの華のある雰囲気がこの暗い背景に彩りを与えていて、この女性なら
どんな男でも疑うことはないだろうなと感じました。
水上先生の作品に登場する女性は多かれ少なかれ男性の目から見た理想的な姿で描かれ
ることが多いように思うのですが、この八重ほど可愛い女は今まで見てきた作品の中で
もそういなかったように思いました。
テレビや映画にも取り上げられている作品なので結構世間的にも名前も通っているし、
永島敏行さんや島田歌穂さんなどネームバリューもあるので、一般商業演劇として、
大劇場での1ヶ月公演にも充分耐えうる作品に仕上がっていたのではないでしょうか。
私の評価・・・よかった

11月

題名・・・「日の丸」
作者・・・森田有
演出・・・野々村三和子
劇団・・・自立の会
主演・・・谷田昌蔵

題名・・・「サイタ サイタ サクラガサイタ」
作者・・・得丸伸二
演出・・・戌井市郎
劇団・・・文学座
主演・・・山本郁子
男性・とてもよかった=16%・よかった=45%・まあまあ=33%・よくなかった=6%
女性・とてもよかった=18%・よかった=46%・まあまあ=30%・よくなかった=6%

今回の例会は、京都芸術センター(元命倫小学校)で行われました。
木造の校舎が懐かしく、会場の講堂は天井や内装が素敵でした。


○「日の丸」
黒い燕尾服を来た小学校の校長先生が、メイドさんと現れ、右とは何かということを
メイドさんに説明するところから始まりました。
内容的には、校長先生が右翼系思想を主張していくうちに、どんどん妄想につかれていき
戦時下の小学校の朝礼で子供達に、戦争へ行くことを勧める演説になっていきます。
そして自分のところには絶対に来ないと思っていた徴兵の赤紙が届けられ・・・。
戦後の憲法がアメリカからの押しつけであり、それを改正しようと言う大会で発表された
中曽根康弘氏作詞の「憲法改正の歌」などが取り入れられていたのですが、本当にそれが
戦後に作られた物かと疑いたくなるほど、軍歌調だったのにあきれてしまいました。
もともとこの作品はメーデーに際して上演されたものだということで、左翼的視点から
見た右翼の主張的な感じがあって、どちらにしてもステレオタイプな気がしました。
私の評価・・・まあまあ


○「サイタサイタサクラガサイタ」
この作品は、ラジオドラマの形式を取っていました。ですから舞台の真ん中にマイクが
置かれ、舞台の奥側に椅子が並べられて登場人物が座っており、自分の出番が来ると
マイクの前に立ってセリフを読むのです。
文学座の皆さんは、海外の映画やドラマの吹き替えで活躍されてる方が多く、興味深く
見ることができました。特に奈津子役をなさった山本郁子さんは「チャングムの誓い」で
皇后の声を担当しておられた方なので、マイクの前での台本の持ち方やしぐさを拝見
できて、こんな風に収録されていたのだろうかと、見入ってしまいました。
ストーリーは戦中の文学座の作家森本薫・杉村春子たちをモデルに言論統制の中、演劇
の火を灯し続けようと頑張る若者達の姿を描いていました。
森本薫と妻と杉村春子が三角関係だったこと、杉村春子と夫との関係などもこの中で
語られました。私が知っている杉村春子はもう既に新劇界の大御所でしたから、若き
日にこのような苦悩を背負っていたことに、私の中にある杉村春子のイメージが少し
変わりました。
生きるために当局が要求する戦争賛美の作品を書くべきか、それとも自分の意志を貫く
べきか悩む作家。
夫の気持ちが別の女に移っていることに薄々気づいている妻。
女優を続けるために東京に残る奈津子(杉村春子のこと)。
言論統制と、次々に閉鎖される劇場。出征する芝居仲間。
文学座の歴史の1ページを語り継ぐ作品でした。
私の評価・・・よかった

9月

題名・・・「明石原人 ある夫婦の物語」
作者・・・小幡欣治
演出・・・丹野郁弓
劇団・・・民芸
主演・・・日色ともゑ
男性・とてもよかった=19%・よかった=60%・まあまあ=19%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=36%・よかった=53%・まあまあ=10%・よくなかった=1%

この作品は戦前明石で明石原人の化石を発見した直良信夫・音ご夫妻をモデルにして
創作されたものだそうです。
大正の末、大分の実家に帰る途中、恩師の女教師音先生が明石にいることを思い出して、
途中下車し会いに来る信夫。そこから舞台は始まります。
信夫は高等小学校を卒業した後上京し、東京帝国大学で給仕をしていました。
帝国大学の考古学教授・松宮の影響を受け、信夫本人も考古学に傾倒していたのです。
当時明石の西八木海岸では象の化石も出ていたりしたので、初めは2〜3日の滞在の
予定がずるずると延びてしまっていたのでした。
そんな時、音は別に付き合っていた男の子供を流産してしまいます。女学校の教師と
いう立場上、未婚で流産したとなると学校も辞めなければならなくなるということで
急遽信夫に音の結婚相手として白羽の矢が立ちます。
こうして音と結婚した信夫は音の籍に入り、直良の姓を名乗ることになりました。
明石で暮らし始めたある日、嵐で崩れた崖から信夫は旧石器時代のものらしい人骨
を掘り出しました。これが直良夫婦の人生ばかりではなく、日本の考古学界をも、
揺るがすことになった明石原人の腰骨の化石だったのです。
旧石器時代の人骨の化石を見つけたことに興奮した信夫は年代測定の証拠となる砂を
洗い流すという大失敗をしでかしていたのでした。その上、信夫が高等小学校しか
出ていない町の考古学マニアであったこと、東大vs京大の学閥争い、それに加えて
神武天皇以前は日本に人間はいなかったとする皇国史観が考古学研究の障壁となって
世紀の発見だったはずの明石原人が偽物の烙印を押されてしまったのです。
時の人として一躍ヒーロー扱いされた信夫は、あっと言う間に詐欺師呼ばわりされ、その
悔しさを晴らすために勉強を続けます。そして家族の生活を支え続けたのが音でした。
結局明石原人の化石は東京大空襲で灰となってしまい、歴史の謎のままとなってしまい
ました。
前半、信夫と音の若かりし頃のシーンでは、どうしても信夫が音より11歳年下である
ようには見えなかったのが、ちょっと残念だったかもしれません。でもその残念さを
取り戻すくらい、晩年の直良夫婦の苦労を乗り越えてきた繋がりの深さに感動しました。
戦前・戦中・戦後と考古学を研究し続けてきて、やっとの事で文学博士になる信夫。
身体を壊して病院に入院している音の元に訪れて、博士の帽子をかぶって見せるところ
に、胸が熱くなりました。
明石原人の化石を発掘したときに、現代のように証拠写真を撮ることも、科学的に年代
測定することもできないと言うもどかしさを芝居の間中感じていました。
そして明石原人の化石だけでも直良の実家に疎開させることはできなかったのかと思って
しまいました。
私の評価・・・よかった

7月

題名・・・「アラビアンナイト」
作者・・・ドミニク・クック
演出・・・高瀬久男
劇団・・・文学座
主演・・・目黒未奈
男性・とてもよかった=22%・よかった=44%・まあまあ=28%・よくなかった=6%
女性・とてもよかった=23%・よかった=45%・まあまあ=27%・よくなかった=5%

子供の頃誰もが読んだ「アラビアンナイト」の物語。でもなぜ「アラビアンナイト」が
この世に存在したのかまでは知らない人も多いのではないでしょうか。そういう私も
今回の舞台で初めて知った人間です。
アラブの王・シャハリヤールは互いに愛し合っていたと思っていた妻に不倫の男
がいたことを知り、妻を殺してしまいます。そして女性不信になってしまった
シャハリヤールは毎夜新妻を娶り、翌朝には殺してしまうという蛮行を繰り返して
いたために、国中に若い娘がいなくなり、悲しみに包まれることになってしまったのです。
そこで聡明で子供の頃から物語を語るのが大好きだった大臣の娘・シャハラザードは
自分が王の花嫁になると願い出ます。父親の大臣は自分の娘も王に殺されてしまうこと
を悲しみ反対するのですが、シャハラザードは自分が花嫁になる条件として、妹の
ディーナザードも共に宮中に入ることを願います。そして妹には毎夜、夜明けの1時間
前に、シャハラザードにお話をして欲しいと起こすように、命じたのでした。
こうしてアラビアンナイトの物語が始まりました。まず第1夜は「アリババと40人の
盗賊」前編が終わったところで夜が明けます。そして続きを聞きたいという妹の願い
が聞き届けられ、姉の命は助かります。ただしシャハラザードの話が全て尽きたときには
殺すとの条件付きでした。
有名な「アリババと40人の盗賊」「船乗りシンドバッドの冒険」以外にも短いもの、長い
もの次々に語られる物語を11名の俳優さん達が何役も兼ねて演じていかれました。
私たちの生活の中でなかなか接する機会がないのがイスラム教ではないでしょうか。
どうしてもイスラム原理主義者の起こす事件に目を奪われて、人々の中に生きているイスラム
教がどんなものであるのか、私自身全く知らないと言っても過言ではないと思います。
「アラビアンナイト」は物語という形をとって、人々にイスラム世界で生きていくための
知恵をおもしろおかしく教えてくれているのではないでしょうか。
例えば「アリババと40人の盗賊」ではアリババの真似をして盗品を盗みだそうとした
アリババの兄が盗賊に見つかって殺されたり、盗賊たちが最後には隠れていた瓶に煮立
った油をそそぎ込まれて殺されたりと、結構残酷な話だったのですが、ここからも
盗賊になればどんな運命が待ち受けているかを自然に知ることができます。
この芝居を見終わった後、「アラビアンナイト」の物語を読んでみたくなりました。
私にこう思わせたということは、それだけこの芝居が面白かったということです。
私の評価・・・よかった

6月

題名・・・「紙屋町さくらホテル」
作者・・・井上ひさし
演出・・・鵜山仁
劇団・・・こまつ座
主演・・・辻萬長
男性・とてもよかった=42%・よかった=42%・まあまあ=13%・よくなかった=3%
女性・とてもよかった=31%・よかった=43%・まあまあ=13%・よくなかった=3%

舞台は戦後のGHQの取調室から始まります。そこに毎日のように現れて
自分こそはA級戦犯なので今すぐ捕まえて欲しいと訴える男・長谷川がいました。彼は
自分は元海軍大将であり、軍人としての数々の功績からみてもA級戦犯にふさわしいと
押し掛けてきていたのでした。
対するGHQ側の取調官・針生は長谷川の収監をかたくなに拒否するのです。
針生は陸軍出身で、海外に留学した経験があり英語がしゃべれたことと、軍人時代に
密偵をしていた経験を買われてGHQに雇われていたのでした。
長谷川と針生は昭和20年5月に広島で出会ったことを語り出します。
「すみれの花咲く頃」の歌声と共に場面が変わります。
広島に赴任した移動演劇さくら隊は紙屋町さくらホテルを宿舎にしていました。そして
慰問公演のために地元の人たちの選抜試験をしていました。そこに現れたのが薬の行商
に身をやつした長谷川でした。長谷川は昭和天皇の命を受けて日本各地の基地を廻り
日本軍の本当の姿を探っていたのでした。それに対して、1億玉砕を掲げる陸軍は
長谷川の存在が邪魔なため、密偵として針生を派遣していたのでした。
さくら隊の一員として集まっていたのは、隊長の新劇俳優・丸山定夫、宝塚出身女優・
園井恵子、その他にホテルの実質的オーナーで日系2世の神宮淳子、淳子の親戚の女性、
言語学者、アメリカ国籍の淳子をスパイとして24時間見張る為に派遣された特高警官。
そこに長谷川と針生の二人が加わることになったのでした。
慰問公演に取り上げたのは丸山定夫・園井恵子の代表作「無法松の一生」の最後の場面
でした。
ここからが井上ひさしの博識の見せ所で、素人に芝居の稽古をさせるのに築地小劇場の
小山内薫や土方与志の演出方法や、宝塚男役の3つのパターン(園井恵子役の森奈みはる
も宝塚出身なのでたいへん楽しめました)の比較してくれました。
また言語学者が針生の言葉から偽っていた経歴を暴いたりするシーンなども、井上ひさし
らしさがありました。
日系2世の淳子の父や兄たちはアメリカ本土で強制収容所に入れられ、日本に一人戻って
来ていた淳子もアメリカのスパイとして見張られるというアメリカ人としても日本人としても
生きられない悲しみ、長谷川の報告を受けながら国体の保持に固執して終戦の決断が遅れ
たため、広島・長崎に落とされた原爆などで死ななくてもよかった多くの命が失われたこと
など(丸山定夫・園井恵子が広島の原爆で亡くなった)、笑いの中に第2次世界大戦に
よって人間が受けた傷を風化させないために作られた素晴らしい作品でした。
私の評価・・・とてもよかった

5月

題名・・・「殺陣師段平」
作者・・・長谷川幸延
演出・・・鈴木完一郎
劇団・・・青年座
主演・・・津賀山正種
男性・とてもよかった=27%・よかった=54%・まあまあ=17%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=37%・よかった=47%・まあまあ=14%・よくなかった=2%

新国劇の伝説的殺陣師段平の一代記。
舞台は、新国劇を上演している劇場の楽屋から始まります。段平は元歌舞伎役者で現在は
新国劇の頭取をしていました。頭取とは劇中でも「頭取は下手な役者のなれの果て」(だ
ったと思う)と戯れ唄で紹介されていたような立場にいたのでした。
新国劇の新作「国定忠治」の本読みを聞いて段平は殺陣を考えるのですが、それまでの
歌舞伎調の常識的な殺陣しか付けられなかった段平は、澤田正二郎によって否定されて
しまいます。
ある夜、盛り場での喧嘩に巻き込まれた段平は、澤田とチンピラの戦っている姿から
リアリズムな殺陣とはなにかを会得し、「国定忠治」の殺陣に活かします。
段平は文字を読むことができませんでした。対して座長の澤田正二郎は大学卒。その為
澤田の理想とする新国劇と段平の生きていた芝居の世界とのすれ違いが大きくなってし
まいます。
澤田が役者生命を掛けて東京で上演した「国定忠治」が大ヒットし、地方巡業をする
新国劇は興行師の要望を無視し、「国定忠治」を上演しませんでした。
というのも澤田は名声に溺れることを恐れたのです。
しかし段平は「国定忠治」を否定されたことは、自分を否定されたことのように思い、
劇団を離れてしまいます。
数年後、半身不随となり寝たきりの段平の元に澤田が現れます。そして「国定忠治」の
新場面・中気で半身不随の忠治のところに捕り手が現れての立ち回りを段平が演じて
見せ、その後澤田と娘に手を取られて亡くなっていくところで芝居は終わりました。
私としては、段平が苦労して編み出した国定忠治の殺陣のシーンを劇中劇で見たかった
なと思いました。バックステージに重点が置かれていたので、どうしても地味な印象が
残ったからです。
やはり華やかな表舞台があってこそのバックステージではないでしょうか。
主演の津賀山さんが病後ということで、体調など大丈夫なのかと見る前は気になっていま
したが、お元気そうな舞台姿に安心いたしました。
私の評価・・・まあまあ

3月

題名・・・「足摺岬」
作者・・・田宮虎彦
脚本・・・堀江安夫
演出・・・袋 正
劇団・・・俳優座
主演・・・渡辺聡
男性・とてもよかった=20%・よかった=61%・まあまあ=16%・よくなかった=3%
女性・とてもよかった=23%・よかった=59%・まあまあ=16%・よくなかった=2%

嵐の中、漁師に助けられた学生がお遍路宿に運び込まれるところから始まりました。
昭和8年の東京。帝国大学の学生間宮は雑誌の広告取りやガリ切り、印刷所のバイト等
をしながら暮らしていました。下宿屋の隣の部屋には海軍学校を目指すために、田舎から
上京し、新聞配達をしながら中学校に通う福井という少年が住んでいました。
福井は兄が出征したものの捕虜となり銃殺されていたのです。そのため世間から白い目で
見られ、父が自殺してしまっていたのでした。世間を見返すために、立派な軍人になって
ほしいと母から期待されていたのでした。
間宮と福井は苦学生であるということと母親からの期待を背負って東京で暮らしていると
いう共通点を持っていたので、自然と仲良くなっていたのでした。
ところがある日、福井は追い剥ぎの容疑で警察に捕まってしまいます。その後真犯人は
捕らえられるのですが、警察での取り調べで暴行された福井は「父親の気持ちが分かった
気がする」と間宮に言い残して自殺してしまいました。
そのような辛い気持ちに加え、母が亡くなったという父からの手紙、また将来への不安や
病気等を抱えて、母の故郷を一目見てから足摺岬で自殺しようと間宮は高知に来ていたの
でした。
献身的な介護をしてくれた宿の娘や家族、行き倒れのところを助けられて宿で長逗留して
いた老人や薬の行商人。それぞれ辛い過去を背負いながら、それでも懸命に生きていく人
たちとの触れ合いや四国八十八カ所巡礼によって命を再生させていくという考えに徐々に
明るさと健康を取り戻していく間宮。最後は未来に期待が持てるような終わりかたでした。
キャストに派手さはなかったのですが、チームワークの良さと丁寧な造りで良心的な作品
となっていました。見終わった後、優しい気持ちになれたような気がしました。
私の評価・・・よかった

2月

題名・・・「天切り松〜人情闇がたり〜」
作者・・・浅田次郎
脚本・・・水谷龍二
演出・・・鵜山仁
劇団・・・イッツフォーリーズ
主演・・・左とん平
男性・とてもよかった=30%・よかった=45%・まあまあ=22%・よくなかった=3%
女性・とてもよかった=37%・よかった=48%・まあまあ=14%・よくなかった=1%

警察の捜査に協力した御礼に留置場に住まわせてもらっている松蔵。ここに入ってきた
若いチンピラに自分が経験してきた裏世界の話を始めます。
松蔵が暮らしていた「目細の安吉」一家に客人として世話になっていた清水の次郎長の
子分・小政が一宿一飯の恩義を果たすため、安吉に無理矢理借金を押しつけた新興やくざ
を手に掛ける話。
日露戦争で一家の大黒柱を亡くし、日々の生活にも困る母子家庭の為に、陸軍大臣の屋敷に
説教強盗に入り、天から降ってきたことにして母子家庭に金をやる話。
子供時代の松蔵に清国の皇太子の振りをさせて、三菱銀行から大金をだまし取る詐欺師の
話。
明治時代のスリの大親分「仕立屋銀次」が網走刑務所から戻ってきたところを、官の陰謀に
より再び網走刑務所に落とされ、受刑者を人扱いしない刑務所長のもと悲惨な獄中生活を
送る仕立屋銀次のもとを訪ねる目細の安吉。杯をかわした親分・子分の絆の深さを語る話。
このような本来ミュージカルには不向きそうなエピソードをミュージカル劇化してありました。
イッツフォーリーズはいずみたくさんが作られたミュージカル専門の劇団だけのことはあり、
なかなか心地良い仕上がりだったんではなかったでしょうか。贅沢なことに演奏が生バンド
でした。
イッツフォーリーズの劇団員だけでなく、フリーのミュージカル俳優などの混成チーム
でしたが、ミュージカル俳優としての基礎ができている人たちばかりだったので歌も
踊りも安心してみることができました。
主役の松蔵を演じられた左とん平さんは商業演劇での経験も豊富な老練さがあり、洗い髪の
色っぽい(?)女形姿を披露したり、ライブドア云々のアドリブを入れてみたり、さすが
だなぁと拝見しました。
ストーリー的には、江戸時代から続く闇の世界の掟や人情をノスタルジーをもって描いている
場面が続いたので、果たして一般観客にどれだけ訴えるものがあったかどうかに関しては
少々疑問が残りました。
例えば、いくら知らなかったとはいえ、陸軍大臣宅から盗まれた金や詐欺で得た金をもらった
側が、ことが露見したときにどうなるのかなどと考えなかったのだろうかと、芝居を見ながら
引っかかってしまったからです。
私の評価・・・よかった

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