新劇通信簿

今年の例会(私のコメント付き)


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11月

題名・・・銀の滴 降る降る まわりに−首里1945−
作者・・・杉浦久幸
演出・・・黒岩亮
劇団・・・文化座
主演・・・皆川和彦
男性・とてもよかった=34%・よかった=50%・まあまあ=16%・よくなかった=0%
女性・とてもよかった=51%・よかった=36%・まあまあ=13%・よくなかった=0%

北海道で召集され満州へ派遣されていた部隊が沖縄へいかされる。その部隊の銃を持たない炊事班の兵隊たちをモデルにした作品。

 沖縄の暑さと今まで見たことも無い食材。戦争末期なので食材も配給が無く、自分たちでかき集めなければならなかった。
食材を集める冨田は当時二等国民とされていたアイヌ出身者だった。彼は上司のパワハラに耐えながら頑張っていた。
土地不案内ということで現地徴用された沖縄県民・中里がやってくる。沖縄人も二級国民扱いされていた。冨田は自分が受けてきたような
パワハラを中里にしようとするのだが、中里は沖縄拳法の使い手だったため反対にやられてしまう。
 犬猿の仲の冨田と中里だったが、同じ仕事をしながら徐々に互いを認めるようになっていくのだが。
いよいよ米軍が本格的に攻めてくる時が迫り、炊事班は食糧をかき集めて兵士たちのために最後の食事を送り届けに行く。

 前回の文化座さんの公演が北海道を舞台にした作品だったので、つながりがあるのかなと思わせる題材でした。
 沖縄で満州から転戦させられた北海道の部隊がいたなんて、ほとんどの日本人は知らなかったのではないでしょうか。そして現在でこそ、ゴーヤちゃんぷるは夏の家庭料理の定番になりましたけど、私の子供のころはゴーヤ自体見たことも食べたこともありませんでしたから、戦争中ならなおさらだろうなと感じました。
そんな中で食材をかき集めるとは、苦労するのも当然だと思われました。

 また住民が話す沖縄言葉が分からないからという理由で、沖縄言葉を話すなとの命令が下されます。話せばスパイとみなすとされたのでした。

 タイトルの「銀の滴降る降るまわりに」というのは『アイヌ神謡集』冒頭の「梟の神の自ら歌った謡」の最初の一説だそうです。
冨田の故郷から届いた妹の手紙の中に書かれていて、故郷の家族を思う冨田はこの歌と共にありました。 

 日本軍の参謀本部は現場のことを何も知らずにただ数合わせで兵士たちを戦場に送りだしていたのではないかと思われてなりませんでした。
 上からの命令は絶対なので、それに従わざるを得なかった兵士たち。沖縄がアメリカ軍のよって抑えられてしまえば、
本土への攻撃の足掛かりになってしまうという理由から兵士や住民に多大な犠牲を払わせました。

 この戦時下の沖縄にいる兵隊を舞台上で表現する俳優さんたち、どんな舞台でも緊張されておられるとは思いますが、戦場の最前線でギスギスした人間関係と言う設定はなかなか精神的にもきついものではなかったかと推しはかってしまいました。
 ただ佐々木愛さんが演じるおばあ・与那城イトが出て来ると舞台を見ている私はホッとさせてもらえました。

私の評価・・・よかった

9月

題名・・・横濱短篇ホテル
作者・・・マキノノゾミ
演出・・・宮田慶子
劇団・・・青年座
主演・・・椿真由美
男性・とてもよかった=34%・よかった=46%・まあまあ=19%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=39%・よかった=54%・まあまあ=7%・よくなかった=0%

   横浜にあるレトロなホテルを舞台に、1970年から5年ごとに7つの物語が展開します。
それぞれにサブタイトルが付いているのも女優の話らしい感じです。

 ホテルの一室で次回作の主演女優を誰にするか相談している映画監督とプロデューサー。
そこに女子高生・奥山ハルコがやくざに追われていると部屋に飛び込んでくる。そして話をしているうちに、演劇部に所属しているので
自分をオーディションしてくれと言いだし、最近演じたという役のセリフを語り始める。

 初めはしぶしぶだった監督・プロデューサーもハルコを主演女優にしようと考え始める。

 こうやって奥山ハルコという女優の恋物語を中心に話が進んで行きました。第2話でハルコの友人で脚本家志望の柳井フミヨがホテルの喫茶室で映画監督と面会し、人間観察をするように言われる。そこでフミヨは女の子とデートの約束をして何時間も待たされている男と知り合う。
 もう現代は携帯電話があって当然になってきているので、連絡が取れずに何時間も待っているという設定だけで、
そんな時代もあったよなぁと懐かしくなりました。
 
 ハルコの結婚相手には野球選手がいたり(そう言えばマリリン・モンローも野球選手と結婚していたことを思い出しました)、
ホテルの喫茶室で話を聞いているうちに余命いくばくもないことに同情した男性がいたり、結婚生活が終わると映画監督のところに
戻ってくるという関係が続いているなど、いかにも女優あるあるとでも言いたくなるような人生に描かれていました。

 この芝居にはオチが用意されていて、ハルコがオーディションで語ったセリフは実はフミヨのものだったのです。フミヨは自分のセリフを使われて順調に女優としての人生を歩んで行くハルコを横目で見ながら、地道に脚本家として活動し旦那さんもいるという安定した人生を送っていたのに、やはり自分のセリフを取られたと言う思いをずっと引きずっていたことを旦那さんに打ち明けます。その嫉妬心がフミヨの向上心を刺激していたのです。

 労演では真面目なお芝居が多いので、久しぶりにどんでん返しで面白かったです。
舞台としても面白かったですが、映像化しても素敵な作品になるのではないでしょうか。

私の評価・・・よかった

7月

題名・・・百枚めの写真〜一銭五厘たちの横丁〜
原作・・・児玉隆也
作・演出・・・ふたくちつよし
劇団・・・トム・プロジェクト
主演・・・田中壮太郎
男性・とてもよかった=27%・よかった=55%・まあまあ=18%・よくなかった=0%
女性・とてもよかった=38%・よかった=53%・まあまあ=9%・よくなかった=0%

  東京の下町の土蔵の二階から99枚の写真が見つかった。それは出征した兵士に送るために家族の写真を陸軍が撮らせたものだった。
 昭和49年、その写真に写っていた家族がその後どうなったのかを知るために、ルポライターの児玉は家族を探して回る。

 児玉は根本家を訪れる。そこには母親と嫁が暮らしていた。児玉は親しく話をしてくれた根本家の歴史を明らかにしていく。

 この作品はルポライター児玉隆也さんが自らの足で取材し書かれたエッセー「一銭五厘たちの横丁」が原作となっているそうです。
架空の家族根本家が100枚めの写真となって、戦中戦後の庶民の姿を浮き彫りにしていきます。

 工場で働いていた健男は良江と結婚後まもなく赤紙が来て、出征します。健男と同じ工場で働いていた高松営造は健男から弟のように可愛がられていたので、
しょっちゅう根本家にやってきていました。高松は健男の妹・松代に好意を寄せていました。

 高松と松代の恋は成就するかと思われていたのですが、勤労動員に向かう途中、松代は空襲にあい怪我をして命を失ってしまいます。
健男も戦死し、根本家に戻ってくることはありませんでした。このような悲しみを抱えながら、東京の下町で暮らし続けていたのです。

 根本家の話の間に、実際にルポした家族の話も挟み込まれていて、たとえば戦地から無事戻ってきた人が「自分は運が良かった」と語っていたり、
ご近所の悪口をいう人がいたり、空襲のために焼け野原となって戦時中に住んでいた人々が一人残らず見つからなかった場所もありました。

 私が衝撃を受けたのは、松代が亡くなったシーン。戦時中でも小さな幸せを育んでおり、それが成就すると思われた矢先の悲劇でした。
戦時中という非常時は現代に生きている私の常識を否定し揺さぶりました。

 ラストシーン、これから訪れる数々の悲しみを知らずに一張羅を着て楽しそうに写真に写る根本家の家族でした。

 戦後70年、労演でも色々な視点で作られた作品が並びました。昭和49年という戦後のどさくさを乗り越え高度経済成長も経験して、冷静に戦時中を振り返ることができる時代から始まるという面白い設定でした。児玉隆也氏について検索したところ、1937年生まれで9歳のころに父親を亡くし母親が女手一つで育てたとありましたので、召集令状で掻き集められた兵士の残された家族たちがどうなったのかルポライターとして興味が引きつけられたのだろうなと思いました。
 児玉氏はこれ以外にも田中角栄に関するルポルタージュが有名でその題名は私も聞いたことがありましたので、そのことを観劇時点で気が付いていれば、また違った見方をしていたかもしれません。

私の評価・・・よかった

6月

題名・・・先生のオリザニン
作者・・・堀江安夫
演出・・・眞鍋卓嗣
劇団・・・俳優座
主演・・・加藤剛
男性・とてもよかった=32%・よかった=49%・まあまあ=17%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=41%・よかった=44%・まあまあ=14%・よくなかった=1%

 鈴木梅太郎の半生を前・後編に分けて作られた作品です。前編は静岡県の農家に生まれた梅太郎が
建築家辰野の書生となって、帝国大学農科大学の古在の元で学び始めるところから現在のビタミンB1であるオリザニンを発見するところ
まで。後編は戦時中の理化学研究所で、オリザニン等梅太郎の発見から作られた薬によって多くの人たちが救われていたのですが、
その当時梅太郎は米を使わずに酒を造ることを考えていて、そのことに反発する若い学生が登場します。

 配役は前編の若い頃の梅太郎を加藤剛さんの息子・加藤頼さんが、梅太郎が師事した古在由直を加藤剛さんが演じられました。
後編は加藤剛さんが梅太郎をなさいました。
 古在由直の元で学んでいるとき、足尾銅山で鉛害で米が育たなくなる被害を地元の農民たちが研究室に調査を依頼しにやってきます。
殖産興業が国策の時代に国と戦うことになり、もう教授となっていたのに古在はドイツへ留学という形で飛ばされてしまいます。

 その後、梅太郎もドイツに留学後、日本に帰ってきて陸軍の軍人には脚気の患者が多く、海軍の軍人には脚気の患者が少ないということで、
鶏を使って研究をしていました。梅太郎は脚気の原因がオリザニン(ビタミンB1)不足であることを突き止めます。
しかし医学会では日本の風土病的な細菌(脚気菌)が原因であると、農学者の梅太郎を一段低く見ていました。
 イギリスでビタミンが発見され、梅太郎の発見したオリザニンもビタミンに含まれてしまいます。これは学会で欧米優先されてたんだなと思いました。
 しかし梅太郎はオリザニンを商品名として薬品を発売し大成功します。これが理研の基礎になりました。

 この作品を見ながら、現在でも理研を冠した企業が東証1部上場企業の中にあることと、先年理化学研究所に在籍していた
女性研究員をめぐる毀誉褒貶のごたごたを思い出していました。理研の歴史を知ることができて参考になりました。

 そして舞台に立つのはこれが最後になるかもしれない加藤剛さん、この前の例会で仲代達也さんが軽々とステップを踏んでおられた姿を見ていましたので、心の中で見比べてしまう残酷な私がいました。ただやはり生真面目な研究者は加藤剛さんのはまり役で楽しませてもらえました。

 妻役の有馬理恵さんが明るくて、重くなりそうな舞台をうまく回しておられたように思いました。

 加藤剛さんの息子・頼さん、たぶん初めて拝見したと思うのですが、剛さんとは違った持ち味の方で、でも基本がしっかりしているなと感じました。
私の評価・・・まあまあ

4月

題名・・・おれたちは天使じゃない
作者・・・サム&ベッラ・スピーワック
訳・・・丹野郁弓
演出・・・丹野郁弓
劇団・・・無名塾
主演・・・仲代達也
男性・とてもよかった=43%・よかった=47%・まあまあ=8%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=58%・よかった=36%・まあまあ=6%・よくなかった=0%

 
 南米フランス領ギアナの町・カイエンヌ。フランスの犯罪者の流刑地でもありました。ここにある雑貨店が舞台。
雑貨店にはデュコテル一家が住んでいました。主人のフェリックスは支配人で、元はフランス本国で雑貨店の支配人をしていたのですが、
経営不振だったため経営者からこの地に左遷されていました。

 デュコテルは商売人というよりも事務員的な性格で、ツケで物を売ってもその代金を回収するのが苦手なため経営状態は芳しくありません。
 この雑貨店の屋根を修理に3人の囚人がやってきます。

 そしてフェリックスにとって最大の危機・経営者が雑貨店の経営状態を調査にやってくることになり…。

 3人の囚人がやってきたのはクリスマスイブ。キリスト教徒だとキリストの生誕を祝うために東方の三博士がやってくるという話を基礎知識として持っているので、このシチュエーションだけでどんな幸運が待ち受けているんだろうと期待してしまうんでしょうね。
残念ながら、私にはそういう基礎知識が無いので、普通に囚人3人が巻き起こした事件(奇跡)を楽しんでしまいました。

 仲代達矢さんは詐欺師のジョゼフ役。スキップで舞台に登場してくるような男です。詐欺師で捕まった男だけあって、口八丁。
店に買い物に来た客相手に、サイズの合わない服も喜んで買わせるぐらいの力があります。ジョゼフを店員に雇ったなら、
フェリックスも経営者が雑貨店の経営状態を調査に来るのにびくびくしなくても良かっただろうにと思えるほどでした。舞台上の仲代さんは
テレビドラマなどで拝見するような重厚さとは真逆の軽い男だったので、これは珍しいものを見ることができたと楽しませてもらいました。

 フェリックスの一人娘マリ・ルイーズは経営者の息子を恋人だと思って久しぶりに会えるのを楽しみにしていたのですが、
息子の方はマリ・ルイーズを都合のいい女としか思っていなかったようで、すでにパリで新しい恋人がいるようでした。
フェリックスに横柄に命令する経営者の姿を見て、三人の囚人は一肌脱ぐことにします。

 殺人犯ジュールが飼っていた毒蛇が大活躍します。三人は経営者の眠っていた部屋に毒蛇を忍び込ませて、経営者を葬ってしまいます。
その後毒蛇の行方が分からなくなって三人は焦るのですが、毒蛇は亡くなった経営者のズボンのポケットに潜り込んでいて、
そのポケットに手を突っ込んだ息子までが毒蛇にかまれて命を落としてしまうのです。

 「おれたちは天使じゃない」三人の囚人がフェリックスにとっての天使になっちゃったという喜劇。ちょっとブラックな味わいがありました。この三人の囚人もフランスでは生活苦で犯罪に手を染めてしまったんでしょうが、本来なら気のいいどこにでもいる男たちだったのかもしれないと思いました。
私の評価・・・良かった

2月

題名・・・「通し狂言 切られお富―処女翫浮名横櫛―」
作者・・・河竹黙阿弥
補綴・・・小池章太郎
演出・・・中橋耕史
劇団・・・前進座
主演・・・河原崎國太郎
男性・とてもよかった=22%・よかった=53%・まあまあ=24%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=38%・よかった=46%・まあまあ=15%・よくなかった=1%

 
 切られお富とは、歌舞伎の切られ与三郎のパロディー作品です。 前進座は端場と呼ばれる芝居の初っ端からきっちり演じ、
また観客もきっちり観るので、切られお富の最初の設定が普通の日本人の感覚には受け入れられないものだったことに驚きました。
 歌舞伎は元々見世物の延長で、主要な役者が出てくるまでは、飲み食いしおしゃべりしながら見るものという習慣があったので、
作者も書きたい放題だったのかもと思ってしまいました。

 お富は絹問屋赤間源左衛門の妾。赤間源左衛門は表向き絹問屋なのですが、実は盗賊の親玉です。お富は女中を連れて出かけたところ、手代の蝙蝠の安蔵にさらわれ、荒れ寺で手籠めにされそうになるのです。蝙蝠の安蔵は盗賊の手下。横恋慕していたとはいえ、親分の女に手を出すなんて江戸時代なのに大胆すぎて驚いてしまいました。  お富の危機に助け出してくれたのが、与三郎。与三郎とお富はかつて木更津で契りを交わしていた恋人同士で、久々のめぐり合いに愛を確かめあうのですが、それが赤間にばれて、お富はなぶり切りにされて川に捨てられる。
(お富はなぶり切りにされたのに、お富を横取りしようとしていた蝙蝠安はばれずにのうのうと無傷だという都合の良さにも驚きました)
 そして数年後蝙蝠安に助けられたお富はさった峠に茶店を出して二人で暮らしていた。そこに与三郎が通りかかって…。

 私も京都労演の会員歴が長くなりまして、労演の例会で先代の河原崎国太郎さんも拝見しています。先代の国太郎さんは個性的な役者さんで記憶している観客も多いと思うのですが、その名跡を継いだ現・國太郎さんはその大きな名前を背負う責任と覚悟が決まってきたように拝見しました。  先代さんは、幕末の退廃した雰囲気があると言われていて、私もこんな女形さんは他にいないよなと思っていました。
現・國太郎さんは全く違う個性の方なので、新たな國太郎像を作って行かれるのだなと思いました。

私の評価・・・良かった

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