新劇通信簿

2012年の例会(私のコメント付き)


2月3月5月7月9月10月12月

12月

題名・・・「くにこ」
作者・・・中島淳彦
演出・・・鵜山仁
劇団・・・文学座
主演・・・栗田桃子

向田邦子さんの放送作家になるまでの半生をコメディチックに舞台化したものでした。
くにこは父親が保険会社に務めていた都合で子供の頃から、数年単位で日本各地を転々としていました。
幕開けは鹿児島弁を姉妹3人で練習するところから始まります。父親の姿を子供の目を通して描いているのですが、
いつも怒っているような男でした。家族は、父母の他弟1人妹2人と父方の祖母の7人でした。

父親は堅物なのに、おばあちゃんはさばけた洒落た人で元芸者さんか何かのような雰囲気の人でした。
母は賢母を絵に描いたような人で口うるさい父に仕えていました。

向田邦子さんのファンの方ならご存知のエピソードが多いとは思うのですが、私は向田さんに関して知識がなかったので
戦前・戦中・戦後の日本・昭和の世相をくにこ一家を通して見ていました。くにこが脚本家になる寸前ぐらいになると
私も知っていることが多くなったので懐かしくなりました。くにこが転職した雄鶏社が映画雑誌を出していたことが
あったのに、少しびっくりしました。

くにこのエピソードの中で印象的だったのは、優しくて控えめな母親の実家が東京の職人さんで大雑把な祖父母
だったのが、ちょっと意外でした。
それと父親が囲っている愛人のもとにくにこが一人で乗り込んで行ったのも、その勇気に驚いてしまいました。

主役のくにこと共に2人の妹たちが元気で明るくて、この3人のコンビネーションの良さがこの舞台を盛り上げていました。 
私の評価・・・よかった

10月

題名・・・「はい、奥田製作所。」
作者・・・小関直人
演出・・・山田昭一
劇団・・・劇団銅鑼
主演・・・横手寿男
男性・とてもよかった=20%・よかった=61%・まあまあ=17%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=32%・よかった=57%・まあまあ=10%・よくなかった=1%
ランキングの目安・・・141位

 東京大田区蒲田にある町工場・奥田製作所。
職人気質の社長が倒れたため、息子が今まで務めていた会社を辞めて戻ってきたのだが、社長は経営観念が薄く赤字経営
だった。
銀行への支払いを考え、会社を潰さないようにするために、息子の鉄彦は買掛金を減らすために仕入先を代えたり、
社長が入社を決めた新人を3ヶ月の試用期間で終了させたり、定年を迎えた熟練社員を嘱託扱いにしたりと色々手を打つ。
妻も他の会社にパートに出ていた。私生活でも息子が高校を無断欠席しているようで心配の種は尽きない。

鉄彦の苦悩も知らず、社員たちは材料の質が落ちたこと、熟練社員や新入社員を辞めさせようとしたことに不満が溜まっていく。
そんな時、納入期限が迫った難しい仕事の依頼が来る。単発の仕事とはいえ、売上を増やすため鉄彦は自分だけで
徹夜しながら作業する。その疲れている姿を見かねて社員たちも手伝い始める。無事納品した数日後、奥田製作所の
丁寧な仕事に国の機関から試作品の依頼が来る。毎日が苦しい連続の中に、一筋の光が差し始める。

私自身が中小企業に務めていて、資金繰りで毎月苦労している姿を見てきたこともあり、経営者側も工員さんたちの
気持ちも分かるので、どことなく身につまされる思いで拝見しました。

芝居の前半は奥田製作所の作ってる部品や得意先の話が工場内の社員同士で交わされるので分かりづらいところがあります。
そしてこの工場が苦境に立ってるのは、売上が減っているのに人件費は減ってないんだろうなと感じられました。

後半なんとなく重苦しい会社の雰囲気がお国の仕事の試作品とはいえ、奥田製作所の技術力が認められて、工場のみんなが
また一つになっていくところに感動してしまいました。
私の評価・・・よかった

9月

題名・・・「樫の木坂四姉妹」
作者・・・堀江安夫
演出・・・袋正
劇団・・・俳優座
主演・・・大塚道子
男性・とてもよかった=49%・よかった=41%・まあまあ=9%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=60%・よかった=29%・まあまあ=10%・よくなかった=1%
ランキングの目安・・・13位

長崎市の樫の木坂に住む三姉妹の2000年と1944年が交互に演じられました。
葦葉一家は父母兄と長女しお・次女ひかると双子まり・ゆめの7人家族だった。元々横浜に住んでいたが、父の転勤で長崎の造船所に来ていた。
兄は特攻隊員として出征し、休暇をもらって家に帰ってきていた。久しぶりに兄がいるということで母は乏しい食料でも心を込めた
料理を作り、ピアノが得意なまりは兄の好きな唱歌を弾いて合唱し、しをは母の手伝い、ひかる・ゆめも久々の一家団欒を
楽しんだ。

しかしこの家族にも戦争は容赦なく、兄は戦死し、長崎に投下された原爆によって、母とまりが亡くなる。
戦後、生き残った父親も原爆症によって身体を壊す。兄の友達と婚約していたしをは、原爆症を恐れて結婚を諦める。
ひかるは佐世保で知り合ったアメリカ兵と結婚してアメリカに渡るが、生まれた子供が病弱で3歳で亡くなると、周りの目に耐え
切れなくなり、日本に帰ってきて水商売で生計を立てていた。そして数年前に樫の木坂の家に戻ってきて、週に数回英会話を教えていた。
ゆめはまりの夢を叶える為音楽教師になっていた。

三姉妹の暮らしの中で喧嘩したり仲直りしたり、どこにでもある平凡な生活に見える中に上記のような被爆者の重荷を背負って生きていました。
三姉妹を演じられていた女優さんの持ち味が生かされており、しをは優しく姉妹を包み込むようであり、ひかるは華やかさがあり、
ゆめは堅実で今まで俳優座で拝見してきたイメージ通りでした。

ひかるはアメリカ帰りで水商売をしていたため生活が派手で、生活費を勝手に持ち出すなどトラブルメーカーだったのですが、
自分が原爆症であることを認めたくない気持ちがあり原爆手帳も持たずに生きていたのですが、病に倒れ亡くなってしまいます。
あれほど元気だったひかるが病に倒れたことが意外でした。
 
三人が平凡に暮らしているところに東京から月に一度カメラマンが訪ねてきて、三姉妹を撮影しながら過去を解き明かして
いきます。それは三人が望んだことであり、自分たちの小さな幸せや大きな悲しみを後世に伝えたいという思いがこめられて
いました。
大きな悲しみを背負っていても、人間は地道に生きていくという姿が印象に残りました。

最近テレビで見たドキュメンタリーで戦後米軍人と結婚して渡米した女性が出演されていたのですが、彼女は米軍人と結婚した
ことで米国籍になったという話をされていました。ひかるもそういう立場だったと思うのですが、その辺について作者は
どう考えていたんだろうとふと気になってしまいました。
私の評価・・・まあまあ

7月

題名・・・「歌舞伎十八番の内 鳴神」
演出・・・岡鬼太郎
劇団・・・前進座
主演・・・嵐圭史
男性・とてもよかった=27%・よかった=61%・まあまあ=10%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=46%・よかった=45%・まあまあ=9%・よくなかった=0%
ランキングの目安・・・57位

今月の例会は前進座による歌舞伎入門と「鳴神」でした。
まず歌舞伎入門は、歌舞伎の特徴でもある女形や黒子、立ち回り、狂言方による拍子木や付け打ち、
鳴り物(大太鼓)による雨音・稲妻・雪音・水音等などの実演しました。これは学生向けの歌舞伎入門と同様の構成ですが、
そこは大人向けに一工夫してあり、例えばあるお屋敷に盗人が入るのですが、盗みを終えて出てくると雨が降り始め雷まで鳴り出します。
それがいつの間にか雪になり、川の畔までやって来て、船を漕ぎだして、最後は川に飛び込むという寸劇を浴衣姿の役者さんが鳴り物に
合わせて演じるのです。なかなかおしゃれでした。

さて、「鳴神」ですが、労演の機関誌に寄せられた嵐圭史さんの一文によりますと、二代目市川左団次一座に身を置いていたのが
前進座創立者の一人河原崎長十郎。後年前進座において左団次直伝の「鳴神」を上演し、今回はその折の演出を再現したとのことでした。

ただ私は大阪在住ですので、今まで何回か見たことがあるのは上方役者が演じている「鳴神」ということを前提として書かせていただきます。
鳴神上人の弟子、黒雲坊・白雲坊という弟子が出てくるのですが、この二人鳴神上人に隠れてタコをつまみに酒を飲もうかというような
生臭坊主で、上方歌舞伎だとこの二人は松嶋屋や成駒屋のベテラン脇役さんが漫才師さながらの掛け合いで演じられます。こういうのを
見慣れているので、割りとあっさりとした掛け合いに少々物足りなさを感じました。

雲の絶間姫は鳴神の雨を降らさない呪術を破るために朝廷から送り込まれてきます。姫と付いていますが、自分が見初めた男の元に
一人で逢いに行ってしまうような今風に言うと肉食女子。絶世の美女でもあるので白羽の矢を立てられたのです。鳴神を落とすまでは
徹底的に妖艶で、鳴神の呪術が解けた途端正義のヒロインになる変化が見所です。ただ今回の雲の絶間姫はセリフが一本調子に
聞こえて面白みが薄く、特に鳴神にしめ縄を切り落とせば竜神が飛び立つことを聞き出した時の凄みが足りない感じでした。

鳴神は嵐圭史さんが手堅く演じられ、安心して拝見していました。特に酔っ払った鳴神が庵の前で大の字で寝てしまうシーンが珍しかったです。
私が今まで見てきたものは、酔っ払った鳴神を雲の絶間姫が庵の中に連れて入ると御簾が下がってきます。そして御簾をかきあげて
絶間姫が抜け出し、滝に張られてあるしめ縄を切り、竜神を逃してしまいます。
御簾の中に入ってしまうと観客には、この二人にひょっとして何かあったのだろうかと想像させられたりしますが、
庵の前で寝てしまう演出だと鳴神上人が男らしい感じがしました。

私の評価・・・まあまあ

5月

題名・・・「川を越えて、森を抜けて」
作者・・・ジョウ・ディピエトロ
訳・・・小田島恒志・平川大作
演出・・・高瀬久男
劇団・・・加藤健一事務所
主演・・・加藤健一
男性・とてもよかった=27%・よかった=47%・まあまあ=24%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=31%・よかった=56%・まあまあ=12%・よくなかった=1%
ランキングの目安・・・124位

4人の祖父母と毎週ディナーの時間を持つことにしていたニックに、シアトルへの栄転の話が来る。
両親が遠くに引っ越した後、親替わりになって育ててくれた祖父母をおいて行くことに、若干の気掛かりがあるニック。
祖父母たちも自分たちがニックから捨てられたようで、なんとか引き留めようと、祖母のポーカー友達の孫娘を紹介するのだが。

色々悩んだ末、ニックは栄転することを選ぶんですが、洋の東西を問わず老人たちの抱える現実は同じなのだなぁと思えました。
車の運転が危なくてキーを取り上げようとした話など、我が家でもあったことなので、とても共感できました。
反対はしていても最後には孫の決めた道を許してあげる祖父母たち。ハートウォーミングな芝居でした。

ニックにとって両親の父母4人が仲良しというのは、アメリカに住むイタリアからの移民という団結力からなのか、
仲良しだった家族の子供たちがたまたま結婚したからなのか、日本ではあまり聞いたことのない関係だったのが
羨ましく思えました。

高齢者を扱っていてもこんなおしゃれな芝居を生み出すアメリカの演劇文化が羨ましく、
そしてこういう芝居を見つけ出しては日本で上演を続けている加藤健一さんの努力と、観客も加藤さんの持ってくる芝居なら
絶対面白いと楽しみにしている、そういう演者と観客の信頼関係が成り立っている劇場空間も芝居の面白さを倍加するようで
心地良かったです

私の評価・・・とてもよかった

3月

題名・・・「ひとり芝居しのだづま考」
作者・・・ふじたあさや
演出・・・ふじたあさや
劇団・・・京楽座
主演・・・中西和久
男性・とてもよかった=30%・よかった=50%・まあまあ=19%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=38%・よかった=45%・まあまあ=15%・よくなかった=2%
ランキングの目安・・・87位

平日公演のため、不参加でした。悪しからずご了承ください。

2月

題名・・・「王女メディア」
作者・・・エウリーピデース
修辞・・・高橋睦郎
演出・・・高瀬久男
劇団・・・幹の会+リリックプロデュース公演
主演・・・平幹二朗
男性・とてもよかった=45%・よかった=33%・まあまあ=18%・よくなかった=4%
女性・とてもよかった=58%・よかった=30%・まあまあ=11%・よくなかった=1%
ランキングの目安・・・17位

平幹二朗さんの代表作の一つ「王女メディア」、機関誌に平さんの言葉として今回の「王女メディア」を
「新しい演出、スタッフ、コロス達で『さよならメディア』公演をやることになりました。」と書かれていました。
私は昔、蜷川幸雄演出で平さんの「王女メディア」を見たことがありました。ただし、昔過ぎて記憶がないのですが、
その後、嵐徳三郎さんの「王女メディア」を数回見てきたので、十数年ぶりの生の「王女メディア」のセリフを
懐かしく聞かせていただきました。

平さんは新しい演出とおっしゃっていますが、平さんのセリフ回しは私の耳には蜷川メディアを踏襲しているとしか
聞こえませんでした。
コロスのメンバー中、若松武史さんや有馬眞胤さんも蜷川芝居の常連なので、平さんと違和感なく他のコロスメンバーを
リードしていたと思いました。

ただ夫イアーソン役の城全能成さんは文学座らしいセリフ回しをされていて、ちょっと毛色が違っているように見えました。
なので、統一感が無いように私には感じられました。

どうしても私の記憶の中の王女メディアと見比べてしまっていました。
平さん最後の王女メディア、申し訳ないですが、私には芝居を見たという満足感を与えてはくれませんでした。

私の評価・・・まあまあ

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