新劇通信簿

2011年の例会(私のコメント付き)


2月4月6月7月8月10月12月

12月

題名・・・「フレディ」
作者・・・ロベール・トマ
演出・・・上原一子
劇団・・・テアトル・エコー
主演・・・安原義人
男性・とてもよかった=21%・よかった=54%・まあまあ=24%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=24%・よかった=58%・まあまあ=16%・よくなかった=2%

貧乏サーカス団の団長フレディは、お金を借りに男爵夫人のところに行く。
この婆さんは金を貸す代わりにフレディのことを押し倒そうとしたので、フレディは突き飛ばして帰ってきたのだ。
金が借りられなくてガックリしていたところに刑事が訪ねてきて、金貸し婆さんが殺されたのでフレディに
殺人の容疑がかかっていると告げる。

刑事はフレディが自白してくれれば裁判が有利になるようにすると取引を持ちかけ、フレディもその気になる。
裁判でサーカス団を守るための正当防衛だったと主張したフレディは勝訴と人気を勝ち得る。今までの貧乏が
嘘のようにどんどん客が詰めかけるようになるのだが、ある日「真犯人はお前ではない私だ。それを世間にばらす」と脅迫される。

もしその事実が明かされると、今まで嘘をついてきたことで、観客が離れてしまうのではとフレディは心配になり、
脅迫者に会うことにする。
脅迫者の要求通り、金を用意しようとするのだが上手く行かず、再度訪ねてきた脅迫者と話すうちに、脅迫者が
真犯人ではないことが判明する。では、真犯人は誰だったのか?というストーリー。

金貸しの男爵夫人が死んで一番得をする人間が真犯人というサスペンス物としてはオーソドックスなストーリーでしたが、
捜査も荒っぽければ裁判も物証がどうこうではなく情に訴えれば勝つような感じで、見る側としてはあまり理屈にこだわらず、
娯楽作品として楽しむべきものでした。
ロベール・トマの作品では「罠」が日本ではよく上演されているようですが、「フレディ」はサーカス団が舞台なので
サーカスシーンなどのハードルもあり、上演されにくいと思われるので、珍しいものが見ることができました。

フレディ役の安原義人さんが、劇団の若手を引っ張る形で頑張っておられました。サーカス団経営に苦労するフレディに
被るような感じもあって、ペーソス味が強く出ていました。もしこの役をコメディアンの方がなさったとしたら、
もっと無責任男ではじけたフレディになっていたかもしれません。でもこのペーソス味が安原さんの良さだと思いました。
私の評価・・・まあまあ
10月

題名・・・「海霧」
作者・・・原田康子
脚本・・・小池倫代
演出・・・丹野郁弓
劇団・・・民藝
主演・・・樫山文枝
男性・とてもよかった=36%・よかった=51%・まあまあ=13%・よくなかった=0%
女性・とてもよかった=54%・よかった=39%・まあまあ=7%・よくなかった=0%

所要のため欠席してしまいました。悪しからずご了承ください。

8月

題名・・・「だるまさんがころんだ」
作者・・・坂手洋二
演出・・・坂手洋二
劇団・・・燐光群
主演・・・鴨川てんし
男性・とてもよかった=17%・よかった=37%・まあまあ=38%・よくなかった=8%
女性・とてもよかった=10%・よかった=48%・まあまあ=34%・よくなかった=8%

京都労演で初の燐光群の芝居は地雷をテーマにしていました。

○地雷撤去に派遣された自衛官。
○地雷を埋められた村の人々の苦悩。
○日本で自衛隊に備蓄される為だけに地雷を作る会社の社員。
○敵対する組の襲撃から身を守る為、組員に地雷を手に入れる様命ずる親分。
○地雷を手に入れる為、大学の地雷研究会に接触する組員。

このようなエピソードを繋げながら、地雷の歴史や種類、残虐性が描きだされていきました。

戦争で大国がゲリラ活動を封じるため地雷を埋めていくのですが、それによって非戦闘員の村人や子供たちが
手足を無くしていくのです。
その地雷にもただ踏めば爆発するものもあれば、1回目のショックでは爆発せず2回目のショックで爆発するものや、
跳躍して高さが1mの所で爆発するものなど、私たちの思いも寄らない地雷の数々が紹介されました。
地雷によって村を離れなければならなくなった村民たちが、隣の村に自分たちの村を取られないように
井戸の周りや村の入口に地雷を仕掛けて去って行くというシーンもあり、地雷で苦しんでいながら地雷に
頼らざるをえないという現実に悲しくなりました。

ニューヨークの公園に地雷が埋められたという情報が寄せられ、内密に上記の村の女が呼ばれます。
その女はトカゲに地雷の臭いを覚えさせて、地雷を発見させていたのです。結局、そのトカゲが巨大化し
怪獣になって村を襲ってしまいます。

親分に地雷を手に入れろと言われた組員は、大学の地雷研究会の会員の女性と接触します。
彼女は元々足が不自由ということで、自ら志願して地雷撤去活動を始めるのですが、撤去活動に行く度に
地雷に吹き飛ばされて全身サイボーグ化してしまうのです。

組員が無い知恵を絞って地雷を探しまわっているのに、親分は敵対する組と手打ちをしてしまって、
地雷が必要無くなったと組員に断ってしまいます。

以上のように、この芝居は風刺を効かせているのですが、ブラック過ぎて私には笑えませんでした。
私の評価・・・よくなかった

7月

題名・・・「エル・スール〜わが心の博多、そして西鉄ライオンズ〜」
作者・・・東憲司
演出・・・東憲司
劇団・・・トム・プロジェクトプロデュース
主演・・・たかお鷹
男性・とてもよかった=29%・よかった=45%・まあまあ=24%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=26%・よかった=55%・まあまあ=18%・よくなかった=1%

主人公・キヨシの小学5年生の昭和32年。西鉄ライオンズが日本シリーズに勝って、博多全体が喜びに湧きあがり活気がありました。
博多駅前は、その頃戦後のままのバラック長屋があり、そこに住んでいた人々との思い出が綴られていました。
 
博多が舞台でしたけど、私が子供の頃の大阪にも通じるものを感じました。
キヨシたちが応援する西鉄ライオンズのメンバーを憧れを持って告げるシーンが何度も出てくるのですが、
私自身はオリックスの監督をされていた仰木さん、阪神でコーチをされていた中西さん、野球解説者をされていた豊田さん以外は
あまりイメージが浮かばず、野球が全く分からない観客にとってはどうだったんだろうかと感じてしまいました。

去年見た「鬼灯町鬼灯通り三丁目」はフィクションで最後にドンデン返しもあり面白かったので、そういう作品を内心期待していたので「エル・スール」は
心象風景がメインだったため、ちょっと物足りない印象が残ってしまいました。

ちなみにエル・スールとはスペイン語で「南へ」という意味だそうです。ただ私たち関西人にとって、福岡博多と言えば「西」なので、作者にとって
西でなく南である意味は何なのだろうかと疑問が残ってしまいました。

キヨシ役はたかお鷹さん、半ズボンに野球帽で小学5年生の役を演じられました。演技に遊び心を感じるたかおさんだからこそ、
見ているうちに違和感がなくなってきたのではないでしょうか。
近所のおばさん役の松金よね子さん。前半の元気なおばちゃん役が素敵なのはもちろんですが、後半の胃がんのため余命いくばくもない身体で
町に戻ってきた時の消え入りそうな雰囲気に凄いと思いました。
私の評価・・・まあまあ

6月

題名・・・「アパッチ砦の攻防」
作者・・・三谷幸喜
演出・・・永井寛孝
劇団・・・東京ヴォードヴィルショー
主演・・・佐藤B作
男性・とてもよかった=50%・よかった=40%・まあまあ=7%・よくなかった=3%
女性・とてもよかった=52%・よかった=39%・まあまあ=8%・よくなかった=1%

この作品は15年前に三谷幸喜によって作られた作品です。
ちゃらんぽらんで行き当たりばったりの主人公・鏑木が娘とその婚約者親子の前で見栄を張ろうとした
ことから、色々な騒動が巻き起こります。
鏑木は事業に失敗して億ションを売り払ったことを言い出せず電気屋の振りをしてマンションに入り込みます、
そこに娘、婚約者、婚約者の両親、別れた妻、電気屋、今一緒に住んでいるフィリピン人の彼女が次々にやってきます。

そして現在そのマンションに住んでいる鴨田夫婦が巻き込まれていくのです。
億ションを半値で買えたことで、得意満面だった鴨田は、電気屋にテレビの配線を頼んだだけなのに、
次から次に電気屋の知り合いが増えていき、人が増えるのと反比例して部屋に飾ってあった絵やゴルフバックが
無くなっていきます。訳の分からない出来事にイライラ怒りだす鴨田に対して、奥さんは天然な人で何か変だなと
思いながら、そんなもんかなと鏑木の元妻に台所まで貸してしまう不思議ちゃんな雰囲気が面白かったです。
そんな不思議ちゃんの奥さんが不動産屋と浮気してるとは、その意外性にもびっくりするとともに、笑わせてもらいました。

関西に住んでいて喜劇というと、どうしても役者個人の持ち味で笑わせてもらうものというイメージが
あるのですが、三谷さんの脚本の凄さに感心させられてまいました。機関誌によると再演の度に三谷さんが
加筆されているとのこと。登場人物もドンドン増えているのに、休憩時間無しの2時間にまとめているそうです。

次から次へと人が出たり引っ込んだりしていくのに、鏑木の口から出まかせ(鴨田には電気屋といい、
娘や元妻にはいまだにマンションの住人であると思わせる)を紡いでいく緻密な脚本、携帯電話の扱いとか
15年の時代の流れでちょっと苦心してるなと感じるところもありましたけれど、さすがでした。

この大変な芝居を出ずっぱりで熱演された佐藤B作さん、その元気さに驚いてしまいました。
B作さんと丁々発止とやりあう鴨田役の角野卓造さんは以前にもこの役を演じておられたとのことで、
そうでなければこの芝居をちゃんと無事に終わらせることはできなかったのではと思えました。
私の評価・・・とてもよかった

4月

題名・・・「花咲くチェリー」
作者・・・ロバート・ボルト
演出・・・坂口芳貞
劇団・・・文学座
主演・・・渡辺徹
男性・とてもよかった=6%・よかった=52%・まあまあ=39%・よくなかった=3%
女性・とてもよかった=16%・よかった=53%・まあまあ=29%・よくなかった=2%

保険の外交員ジム・チェリーが支店長と喧嘩して帰ってくる。
ジムは妻に会社を辞めたことを言い出せない。
ジムは妻や子供たちと直接向き合うことができず、すぐに話をそらしてしまう。そしてジムは自分が育った
サンセットモームの果樹園の思い出話を持ち出すのだ。

家族は入隊前の息子とデザインの勉強をしている娘がいた。
娘は自分のデザインがコンテストに選ばれ賞金が入るので友達とアパートを借りるつもりにしていた。
会社を辞めたジムは毎日8時半に家を出て、時間を潰して帰ってくる。
そして妻に隠れてジンを飲むようになっていた。お金が無くなり、妻の財布から生活費の20ポンドを盗んでしまう。
それに気がついた妻はお金を盗んだのは息子だと思ってしまう。
以前にも女の子とデートするために10ポンド持ち出されたことがあったからだ。妻は生活費のお金に印を付けていた。
息子が帰宅したので妻はお金を返すように命ずるが、息子は10ポンドは返すが20ポンドは知らないと突っぱねる。
妻と息子が揉めていても自分が取った言えないジムは成り行きにハラハラするだけだった。
妻がジムから受け取った20ポンドがなくなった生活費だったことに気が付き、会社を辞めてしまったことも知ってしまう。
妻は不動産屋に行って、今住んでいる家を売れば25万ポンドになるので、サンセットモームの果樹園を買い取って
引っ越そうとジムに提案する。しかしあんなに憧れていた果樹園での生活にも踏み出せないジムに、とうとう
妻も堪忍袋の緒が切れ、家を出ていってしまう。

ジムを演じたのが渡辺徹さんだったのですが、ジムの優柔不断な性格が、渡辺さんの持つ明るいイメージといい感じで
ミックスされていて、失業者になってしまっても家族の前では明るく振る舞う姿と、一人の時はアルコールに
溺れる姿の対比がうまく出ていたように思えました。

ジムの思い出話の中で、農場で昔働いていた力自慢の男が太い火かき棒を曲げることに憧れていたことが
何度も出てきます。上手い伏線になってました。太い火かき棒を曲げることができたなら、自分は
次の一歩を踏み出すことが出来ると信じていて、でも太い火かき棒を曲げることが出来ないのです。
最後のシーンで、自分が火かき棒を曲げることが出来れば、ジムに愛想を尽かして出て行った妻が
戻ってきてくれると信じて、全力で曲げます。火かき棒が曲がった瞬間、客席から拍手がチラホラ
起こったのですが、芝居を見慣れている労演の観客が拍手したことが珍しかったです。
それほどの迫真の演技で、失礼かもしれませんが渡辺さんの体型から、このまま舞台で倒れてしまわないかと
ハラハラしてしまいました。

ジム・チェリーは渡辺徹さんのニンにあった役だと思いました。

ジムの妻は、良妻賢母の鑑でした。どんなに夫に対して不満があっても、子どもたちの前では
ちゃんと夫のことを立てているし、これからの家族の生活や子供たちのことも考え、ジムの一家が
持ち家だったのもこの奥さんがいたからに違いないと思えました。
ここまでの良妻賢母でさえ、見放すのですから、普通の奥さんなら、もっと早くに家出していただろうと思いました。

私の評価・・・とてもよかった

2月

題名・・・「化粧」
作者・・・井上ひさし
演出・・・鵜山仁
劇団・・・こまつ座
主演・・・平淑恵
男性・とてもよかった=25%・よかった=57%・まあまあ=16%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=31%・よかった=41%・まあまあ=26%・よくなかった=2%

2010年に亡くなられた井上ひさしさんの追悼公演でした。
前回、渡辺美佐子さんが京都労演で上演されたのは1992年でしたから、約20年ぶりとなります。

1週間後には取り潰されてマンションになる予定の芝居小屋、そこに女座長が最後の公演を
盛り上げようと五月洋子お得意の「伊三郎別れ旅」の口立て稽古を始めるのですが…。

浴衣姿で寝転んでいた五月洋子が、口立て芝居の稽古をしながら股旅物のヤクザ姿に化粧をし、
衣装を着つけていきます。
その間に東京のテレビ局から、テレビで活躍している歌手が洋子の息子ではないかと
取材にやってきます。そこで洋子の身の上話と「伊三郎別れ旅」が綯交ぜになって進んでいきます。

一人芝居で膨大なセリフを早口で喋りながら、化粧をし衣装を着ていく。それだけでも凄いことと
思うのですが、やはり20年前の渡辺美佐子さんのかすかな記憶と比べてしまっていました。
渡辺さんは82年から演じ始め、京都労演では10年間の蓄積がありましたから、単純に比べる
べきではないとは分かっています。でも平さんが真面目に取り組んでいる努力はひしひしと伝わって
くるのですが、なにか一味違うかなと感じました。

それにしても幕切れに五月洋子が何故宙吊りになっちゃったんでしょうか。芝居を演じながら昇天したことを
表していたんでしょうか?
確か渡辺さんはまた最初から同じことを始めて、不気味で強烈な印象を残して終わっていました。
幕切れの演出が疑問で消化不良で終わってしまったことが残念でした。

私の評価・・・よかった

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