新劇通信簿

2008年の例会(私のコメント付き)


2月3月5月7月8月10月・12月

12月

題名・・・「ミュージカル おれたちは天使じゃない」
作者・・・藤田敏雄・矢代静一
演出・・・藤田敏雄
劇団・・・イッツフォーリーズ
主演・・・西本裕行
男性・とてもよかった=32%・よかった=53%・まあまあ=14%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=46%・よかった=48%・まあまあ=5%・よくなかった=1%

年末のある夜、3人の囚人が脱獄する。そして雪深い別荘にもぐりこみます。
その別荘にある服や食料を奪い逃げようとするのですが、そこの主人大塚明と妹娘光子が自殺しようとする
ところを助けます。
大塚明は画廊を経営していたのですが、莫大な借金をして手に入れたピカソの絵が偽物だったのです。
姉娘エミが買い物に出かけている間に自殺しようとしていたのでした。
エミが買い物から戻ってくると人相の悪い3人の男たちが家におり、父親と妹が自殺しようとしていた
と知り、驚きます。
エミが買い物に出て行ってたのは、その夜婚約者の黒川始と父親の虎男が来ることになっていたので、
年越しパーティーの食料などを調達するためでした。
脱獄犯が忍び込んでいる別荘に警官が来たり、黒川親子が来たりとハラハラさせる展開で、
途中から脱獄犯たちよりセレブな親子の方が悪人だったというひねりのあるストーリーでした。
 機関紙によると初演が1974年。30年前の作品ということで設定的に古くなっている所もあるなぁと
感じるところがある一方、人を騙して富を得ようとするあくどい人間像にバブル時代以前の作品なのに
この手の犯罪がある限りこの芝居は古くならないと考えさせられるものがありました。
私の評価・・・よかった

10月

題名・・・「音楽劇 詩人の恋」
脚本・・・ジョン・マランス
訳・・・小田島恒志
演出・・・久世龍之介
劇団・・・加藤健一事務所
主演・・・加藤健一
男性・とてもよかった=26%・よかった=48%・まあまあ=22%・よくなかった=4%
女性・とてもよかった=38%・よかった=48%・まあまあ=10%・よくなかった=4%

舞台はオーストリア・ウィーンの音楽大学の一室。
そこにアメリカからスティーブンと言う若きピアニストが尋ねてくる
スティーブンは、シラー教授に師事することを願うのだが、シラー教授は少なくとも3ヶ月は
マシュカン教授について勉強するようにと言われやってきたのだった。
マシュカン教授は、声楽が専門でピアノはお世辞にも上手とはいえなかった。しぶしぶマシュカン教授の
レッスンを受けることになったスティーブンに与えられた教材は、ハイネの詩にシューマンが曲をつけた
「詩人の恋」だった。
神童と呼ばれたスティーブンにとって、マシュカン教授のリズムが不揃いな伴奏や強引な指導法は神経を
逆撫でするものだった。そしてオーストリアは大統領にヴァルトハイムを選ぶかどうかが新聞紙上を
賑わせている時代だった。
 ヴァルトハイムは第2次世界大戦中ナチス突撃隊の将校だったのだ。それに対するマシュカン教授の
言動から、反ユダヤと思い込んだユダヤ人のスティーブンは素直にマシュカン教授のレッスンを
受けることができなくなっていった。
 しかしマシュカン教授に反抗しながらもレッスンと続けていくうちに、マシュカン教授がユダヤ人で
強制収容所に送られ腕に番号の入れ墨をされいることが明かされていく。
 反ユダヤの人々と暮らさねばならないユダヤ系オーストリア人のナイーブな感情と、ユダヤ人の
アイデンティティーを主張することができるユダヤ系アメリカ人。
 二人の感情の揺れがハイネの詩・シューマンの曲にうまくシンクロしてお芝居は進んでいきました。
最後お互いが理解し合え「詩人の恋」が完成して、スティーブンの弾くピアノの長い後奏で終わりました。
 ピアノも、詩人の恋の歌もご本人たちが舞台で実際に演奏しながらというハードルの高さに感心しながらの
観劇となりました。マシュカン教授は声楽のプロであり、スランプ中とはいえスティーブンはピアノのプロ
という設定なので、役者の付け焼刃的な技術ではこの作品の魅力が半減してしまうと思うのです。
しかし加藤健一さん、畠中洋さんお二人の歌とピアノは役者さんでここまでするかと思うほどの力強さで圧倒され
ました。
 一度、「詩人の恋」を全曲通して聴いてみたいと思いました。
私の評価・・・とてもよかった

8月

題名・・・「三屋清左衛門残日録 夕映えの人」
原作・・・藤沢周平
脚本・・・八木柊一郎
演出・・・安川修一
劇団・・・俳優座
主演・・・児玉泰次
男性・とてもよかった=30%・よかった=51%・まあまあ=17%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=36%・よかった=48%・まあまあ=15%・よくなかった=1%

時代劇で今人気の藤沢周平の作品を舞台化したものでした。
ある藩で殿様の要人を勤めていた三屋は役職を辞し、長男に家督を譲って、隠居生活に入ったのですが、
友人の町奉行に頼まれて、表立って処理できない雑事を片付けたりしていた。
そうこうしているうち、藩内のお世継ぎ争いの陰謀に巻き込まれ・・・というようなストーリーでした。
藤沢周平の作品として有名な「蝉しぐれ」や「たそがれ清兵衛」などの世界観と着かず離れずという感じで、
あまり新鮮な感じがしませんでした。
 三屋が陰謀を企む者たちに付け狙われて、はらはらするシーンもありましたが、「蝉しぐれ」ほど
ドラマチックでもなく、私にはこの芝居の時間が長く感じられました。
私の評価・・・あまりよくなかった

7月

題名・・・「ダモイ−収容所から来た遺書−」
原作・・・辺見じゅん
作者・・・ふたくちつよし
演出・・・ふたくちつよし
劇団・・・トム・プロジェクト プロデュース
主演・・・平田満
男性・とてもよかった=37%・よかった=48%・まあまあ=13%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=52%・よかった=39%・まあまあ=13%・よくなかった=0%

まずダモイというのは、帰還という意味のロシア語です。
第2次大戦後ソ連に捕虜になり、懲役25年の判決を受けながらも、ただひたすら
日本へ帰ることに希望を見出して、辛い収容所生活を耐え抜こうとした山本幡男
さんの実話を元にして作られた芝居でした。
極寒の地シベリアで抑留され、過酷な強制労働を強いられた捕虜の人たち。
自らの身を守るために、同じ釜の飯を食った仲間さえも裏切るのが当たり前で、誰が
味方で、誰が敵かも分からない。徒党を組むのを恐れたのか、人が集まることも、文書を
書くことも禁止された中、山本はセメントの袋を利用して作った小冊子を作って、
同人詩集を回したり、句会を開催したりしていました。
詩集も形が残れば処罰の対象となってしまうので、同人の間を一回りすれば、
廃棄しなければなりませんでした。
句会で人が集まることも処罰の対象なので、カモフラージュしなければなりません。
しかし山本は根気強く活動を続け、仲間を増やしていきました。
厳しい収容所でも、日本の家族とはがきによる文通が可能になったり、演芸会・野球大会
を開いたり、壁新聞を作ったりすることができるようになってきました。
しかしなかなか進まない帰還に業を煮やした数名が、無謀にも脱走を試みたために、再び
閉ざされた生活に戻ってしまいます。
どんな環境の下でも、仲間を信じ、ダモイを信じ続けてきた山本だったのですが、のどの
痛みと声が出ない症状が現れます。仲間のカンパで町の病院に入院することができたので
すが、たった1日で戻されてきました。山本は末期の喉頭がんだったのです。
病床の山本のところには仲間たちが、交代で訪ねて来るようになります。
死期の近づいた山本に遺書を書かせた仲間たちは、その文章を持って帰ることができない
ため、全文を暗唱して日本に帰還していったのでした。
戦争が終わってからも、戦犯ということで帰還する希望もなく、過酷な労働を強いられる
シベリア抑留者たち。その中でソ連兵の目を盗んで、俳句や詩を作ることで人間性を保ち、
希望を失わないように励まし続けた山本幡男。平田満さんが演じられたのですが、飄々と
した演技で、芝居を引っ張っておられました。
山本が自らの悲しみや苦しみを隠して微笑んでいるからこそ、見てる私たちに感動を与えて
くれたのではないでしょうか。
私の評価・・・とてもよかった

5月

題名・・・「評決-昭和三年の陪審裁判-」
作者・・・国弘威雄・齊藤珠緒
演出・・・鈴木完一郎
劇団・・・青年座
主演・・・山野史人
男性・とてもよかった=38%・よかった=55%・まあまあ=7%・よくなかった=0%
女性・とてもよかった=50%・よかった=43%・まあまあ=7%・よくなかった=0%

日本にも戦前陪審制度があったそうです。その東京での最初の裁判を舞台に作られた
芝居でした。
日本も1等国になったのだから、欧米同様陪審制度にしようと大正時代から5年をかけて、
国を挙げての運動をし、東京での最初の陪審裁判が執り行われることになりました。
そこで東京中から陪審員の候補者が呼び集められ、12人の男達が選ばれました。
職業はバラバラで、床屋・写真館の主人・蕎麦屋・化粧品外交官・踊りの師匠・退役軍人・
銀行員・古物商・呉服屋・円タク運転手・撮影所所長・百姓でした。
陪審員たちは、どんなに仕事が忙しかろうと、女房が臨月であろうと全てお国のためという
理由で、裁判を優先させられてしまうのでした。その上、裁判が結審するまで外部の接触
を禁じられ、裁判が終了すると裁判所の近くの宿舎に閉じこめられてしまうのでした。
電話なども、内容を確認され許されたものしかつなげてもらえないのでした。
被告は、旦那と姑を焼死させたとの容疑を掛けられた若い女性でした。
東京初の陪審員裁判ということで、衆目監視の元、裁判は始まりました。
戦前が舞台というと観客の私たちは重苦しいものになるのではないかと先入観を持って
しまうのですが、裁判を中心にしたサスペンスドラマを見ているようで、謎解きを一緒に
していくという面白さがありました。
戦前のことなので、女性の権利が確立されているわけではなく、また警察の強引な捜査
で、自白を強要されたようにみえる被告が、裁判で提示された物証や証言から真実を
見つけだすことができるかどうか、そして有罪か無罪かを判定する陪審員たちの心の
動きなどに引き込まれていきました。
上演時間の都合で陪審員たちがどういう人生を経て、どういう考えを持つようになったのか
という部分で、目立った人たちしか取り上げられず、最後まで被告を有罪と主張していた
古物商はなぜそこまで頑ななんだろうかと見ていました。
事件の謎解きの方は、ある物証が警察によってでっちあげられたのでは、ということで
陪審員たちは無罪の結論にいたるということになりました。
さて、私たちの立場に振り返ってみると、来年から裁判員制度が始まるのですが、もし
自分が裁判員に選ばれて、裁判に立ち会ったとき、果たしてこんなグレイな事件が
与えられるのかと思いました。犯人は疑いようもなく有罪で、あとは量刑のみを決める
のが裁判員の役目ではないのかと思えるのですが。
私の評価・・・とてもよかった

3月

題名・・・「出番を待ちながら」
作者・・・ノエル・カワード
演出・・・末木利文
劇団・・・木山事務所
主演・・・川口敦子
男性・とてもよかった=21%・よかった=59%・まあまあ=17%・よくなかった=3%
女性・とてもよかった=34%・よかった=52%・まあまあ=14%・よくなかった=0%

ロンドンの郊外に建つ老人ホームが舞台でした。この老人ホームの住人は身よりのない
元女優達でした。
彼女たちにとって、今一番気になることは、今度入所してくるロッタ・ベインブリッジと
メイ・ダヴェンポートが30年間口を利かないほど仲が悪いことでした。
そしてベランダにサンルームを作ることを委員会が認めてくれるかどうかということでした。
こうして平穏に日々が過ぎていくように見える老人ホームにも色々な波風が立っていくの
です。
サンルームに掛かる費用の見積もりが高かったために、サンルームを認めない委員会と、
老人ホームの住人の間に立って苦悩するペリーは、サンルーム建設費用との交換で、
老人ホームの取材を認めてしまいます。しかし委員会によって取材は禁止されており、
誇り高き元女優達もまた取材されることを拒否します。
しかし新聞に、この老人ホームの元女優達は「出番を待ちながら」日々を暮らしていると
書かれてしまうのでした。
この件でペリーは委員会に叱責を受け辞任させられるところだったのを、元女優達の
懇願によってお咎め無しの処分になるのでした。
認知症を発症していたクラークがテーブルに置いてあったマッチでぼやを起こして
病院に引き取られていったり、クリスマスパーティーの途中みんなで楽しく踊ったり、
歌ったりしているところに心臓発作を起こしてオマレイが亡くなっていったりと死と
隣り合わせの生活をしながらも、どの人達も明るくて生き生きしていてとても素敵
でした。
ロッタとメイが口を利かなくなった理由はメイの恋人をロッタが奪って結婚したことが
きっかけでした。ロッタはそのために自分の夫と息子を捨てていたのでした。
ロッタ役の川口敦子さんは華やかさがあり、恋多き女優だったのだろうなと感じさせ
られました。
他の女優さん達も、宝塚出身の歌手の方がいたり、ピアノの弾き語りをする方が
いたりと実力のある多彩な女優さんが揃っていて、楽しく拝見することができました。
自分の老後も、こんな風に前向きに生きていければ良いなと思いました。
私の評価・・・よかった

2月

題名・・・「ドン・キホーテ」
作者・・・ミゲル・デ・セルバンテス
上演台本・・・岡本矢
演出・・・丹野郁弓
劇団・・・無名塾
主演・・・仲代達矢
男性・とてもよかった=27%・よかった=42%・まあまあ=23%・よくなかった=8%
女性・とてもよかった=36%・よかった=39%・まあまあ=23%・よくなかった=2%

機関誌の解説によると1605年に前編が、1615年に後編が書かれた「ドン・キホーテ」。
ドン・キホーテという名前は有名ですが、かといってその戯曲を見たことがあるという人は
この日本ではそんなに多くいないのではないでしょうか。
今回無名塾の公演では、仲代達矢のドン・キホーテ、山谷初男のサンチョ・パンサという
二人の名優によって楽しませてもらうことができました。
漫才コンビ風にいえば、ドン・キホーテがボケで、サンチョ・パンサが突っ込みという
役割だったと思います。
スペイン片田舎の領主アロンソ・キハーノは何不自由なく暮らしていけるほどの財産
を持っていました。しかしキハーノは諸国遍歴の騎士物語にのめり込み、自分も
諸国遍歴の騎士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャであるという妄想に取り付かれて
しまいます。
そこで領民のサンチョ・パンサを引き連れて、諸国遍歴の旅に出てしまったのでした。
風車を巨人とみなして戦いを挑み大怪我をし、担ぎ込まれた木賃宿の主人たちを諸国遍歴
の騎士を優遇する城主と思い込んだり、肉屋の娘を姫と思い込んだり、大事な馬を盗まれた
り、ドン・キホーテたちの旅を知り自らの城に招待した金持ちの貴族に騙されたり。
結局ドン・キホーテの親戚の男が決闘を申し込み、キホーテに勝って彼の領地に帰るように
命令して、やっとキホーテは自分の城に戻ってきたのでした。そして臨終の床で正気に戻り
天国に召されるという流れでした。
現代のわれわれの眼から見ると、キホーテの行動は滑稽を通り越して痛々しく、病気として
治療されるのでは無いだろうかと思われました。
天国に召される直前に正気に戻るのは、いかにもキリスト教徒的な結末だと感じました。
妄想に取り付かれたドン・キホーテを演じる仲代さんと、渋々付いて行ってドン・キホーテ
のおかげで散々な目に合わされるサンチョ・パンサの山谷さんの絶妙な掛け合いがとても
面白かったです。
キホーテの馬は、馬の飾り付けをした自転車で、この自転車に乗ったキホーテが登場
したときにはあまりの可愛さに爆笑してしまいました。
私の評価・・・よかった

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