新劇通信簿

2007年の例会(私のコメント付き)


1月3月4月5月7月9月10月・12月

12月

題名・・・「家族の写真」
作者・・・ナジェージダ・プトゥーシキナ
演出・・・鵜山仁
劇団・・・俳優座劇場プロデュース公演
主演・・・日下由美
男性・とてもよかった=24%・よかった=55%・まあまあ=19%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=22%・よかった=64%・まあまあ=13%・よくなかった=1%

モスクワのアパートに母親と二人暮らしのターニャ。
母親は心臓が悪く、常に死と隣り合わせの状態でした。母にとって一番の気がかりは、娘の
行く末だったのです。母の気持ちを知っているターニャは若い頃には恋をしたことがあると
言います。そんな話をしていると、誰も来るはずがないのにアパートのチャイムが鳴り
ました。その日、モスクワのアパートは停電で、他の部屋の恋人のところに行こうとして
いたイーゴリが部屋を間違えたのでした。
そこでターニャはイーゴリに昔の恋人の振りをして、母の話し相手を少しだけしてやって
欲しいと頼むのでした。
初めは渋々話し相手をしていたイーゴリも母の人柄とターニャの料理に気持ちがほぐれる
のでした。たった1度だけ話し相手を頼んだつもりだったターニャだったのですが、母は
またイーゴリが来てくれないかと期待するようになります。
シベリアに出張に出かけるので、当分イーゴリは来ないと言っているところに、イーゴリが
現れました。イーゴリも徐々にターニャに惹かれ初めていたのでした。
次に母親は孫が欲しいと言い出します。その期待に応えるためにターニャは野菜屋で売り子
をしているジーナに孫娘の振りをして欲しいと頼むのでした。
母親は突然現れた孫娘に大喜びし、革命前から持っていた宝石を箱ごと与えてしまい
ます。
ジーナは子沢山の家に生まれていたので、両親にかまってもらったことが無く、親の愛に
飢えていたのでした。全く血のつながりがないのに優しくしてもらったことに感激して
宝石を返しに来たのでした。というのも宝石をもらったことで喜んで歩いていたら、バナナ
の皮を踏んで転び、足の骨を折ってしまったからでした。
そしてクリスマスの夜がやってきました・・・。
一言で言えばクリスマスのおとぎ話。次から次へと母親の希望が叶っていくというありえない
展開だったのですが、クリスマスだからこそこんな夢のある話も素敵だなと思いました。
ちょっとわがままな母親が明るくてキュートな中村たつさん、この人の明るさがこの芝居を
包み込んでリードしていると思いました。
ターニャを堅物の娘として描いたのが、中村さんの持ち味を引き立てたのかもしれませんが。
私の評価・・・よかった

10月

題名・・・「喝采」
作者・・・クリフォード・オデッツ
演出・・・木村光一
劇団・・・地人会
主演・・・篠田三郎
男性・とてもよかった=20%・よかった=59%・まあまあ=17%・よくなかった=4%
女性・とてもよかった=35%・よかった=53%・まあまあ=12%・よくなかった=0%

ボストンのある劇場。3週間後に幕を開ける新作芝居に主演を予定されていた俳優が突如
帰ってしまいます。
演出家のバーニィは仕方なく、脇役で参加していたフランク・エルジンに白羽の矢を立てました。
バーニィは子供の頃、フランクの演技を見て感激した経験がありました。
しかしフランクは現在アルコール依存症で脇役しかこなせない状態でした。
それでも久々の主役の話に嬉しさを隠しきれず、フランクは受けてしまいます。
フランクが現在の状態になったのは全て妻の責任のように、バーニィに話していました。そして
妻には仕事の愚痴をこぼしていたのです。妻はフランクを守るために演出家に色々
注文を出すのですが、その注文をバーニィがフランクに問いただすと、フランクは
知らない振りをするのです。
こうしてバーニィと妻の対立が頂点に達し、バーニィは妻をフランクから引き離そうと
しました。
妻は楽屋にフランクを残したままホテルに戻ってしまいます。そして楽屋に一人残された
フランクは酒に酔っぱらって眠りこけていて、翌朝予定されていた芝居の稽古をすっぽかし
てしまったのです。
こうしてフランクが今までバーニィに対して見栄を張っていたことが全て明らかに
なります。そして数日後、ニューヨークの劇場では・・・
アルコール依存症で自信を無くしている男が、精一杯張っている見栄に振り回され
ている演出家が、あまりにも素直にフランクの言葉を信じてしまって、フランクの妻を
悪者扱いしている姿に、役者のわがままが判らずによく演出家やってるよなぁと
一緒に見た友達としゃべってしまいました。その演出家があれほど対立していた
フランクの妻にキスしてしまうシーンに、あきれながら思わず突っ込んでしまいました。
私は女なので妻が健気であればあるほど、フランクのわがままに腹が立ったのですが、
この芝居は、男女の視点の違いで見方も変わるのではないかと思いました。
私の評価・・・よかった

9月

題名・・・「深川安楽亭」
作者・・・山本周五郎
脚本・・・小松幹生
演出・・・高木達
劇団・・・青年座
主演・・・山本龍二
男性・とてもよかった=22%・よかった=51%・まあまあ=26%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=31%・よかった=54%・まあまあ=14%・よくなかった=1%

山本周五郎の代表作。
安楽亭は表向き居酒屋なのですが、裏では抜け荷の人足を斡旋するという商売をしていま
した。
抜け荷の情報が奉行所に漏れて、仲間の何人かが殺されるという衝撃的な事件を経て
表面上は平静を装っている安楽亭に緊張感が漂い始めます。
この安楽亭に傷だらけの男が連れてこられます。
この男が将来嫁にもらおうと思っていた娘は、父親の借金のために岡場所に売られてしまって
いたのです。
そして娘を捜し出そうとしていたところ女衒に嗅ぎ付けられ、袋叩きにあったのでした。
男の身の上話を聞いた安楽亭の連中は、娘の身請けの金30両を稼ぐために、抜け荷の
仕事を引き受けます。しかしこの仕事も失敗し、仲間が失われてしまいます。
今まで自分のことしか考えられなかった若者達が、人のために役立とうとしたとき手っ取り早く
金を稼ぐためには抜け荷という手段しか無かったのです。
全てが水泡に帰そうとしたとき、飲んだくれの男が救いの手を差し伸べるのです。
飲んだくれの男の役に山路和弘さん。舞台に出ている8割が酔いつぶれているという
かなり癖の強い役だったのですが、山路さんのあくの強い演技がなければ、この芝居
は成り立たなかっただろうなと思いました。
飲んだくれの男がたどってきた人生を淡々と語るのですが、見ているこちら側にも
何かしらの経験のあるなしで随分感動の度合いが違ってくるのではないでしょうか。
若い頃の小説で読んだときに、それほど感動した記憶がなかったのですが、今回の
公演で身に沁みて、じわじわと感動したのです。そこが山本周五郎の人気の理由だと
実感しました。
私の評価・・・とてもよかった

7月

題名・・・「新 母アンナ・フィアリングとその子供たち」
作者・・・ブレヒト
演出・・・ルティ・カネル
劇団・・・シアターXプロデュース
主演・・・大浦みずき
男性・とてもよかった=9%・よかった=46%・まあまあ=33%・よくなかった=12%
女性・とてもよかった=13%・よかった=32%・まあまあ=43%・よくなかった=12%

「母アンナ〜」と言うよりは「肝っ玉おっかあとその子供たち」という題名のほうが新劇の世界
では通りが良いはずです。私も今まで俳優座で中村たつ・栗原小巻の主演で見たことが
ありました。題名を全く替えてしまって、観客の先入観に挑戦した作品といえるのでは
ないでしょうか。
舞台上には左右の壁に、工事現場の足場が組まれており、メインキャスト以外は作業服
姿でした。アンナは車に荷物を積み込んで戦争を戦う部隊に付いて廻り、酒や食料、日用品
を売って暮らしているのですが、車は無く、天井から吊り下げた1本のロープにたくさんの
トランクをくくりつけ、舞台をくるくる回ることで表現していました。
中村たつ→栗原小巻→大浦みずきとどんどん抽象化されてきている感じを受けました。
肝っ玉おっかぁのアンナは戦争によって、息子の二人を失い、障害を持つ娘は暴行されて
顔を傷つけられてしまいます。それでも戦争が終わり、平和になれば、無一文になって
しまうと恐れているのです。
行動力のあるアンナの姿を見ていると平和な世界でもしっかり暮らしていけるのにと、
感じてしまいました。
演出はイスラエルのルティ・カネルさん。常に戦争を意識せざるを得ない社会に
生きておられるからこそ、戦争の残忍さが普遍であることを知っておられるからこそ
抽象的な表現になったのだと思いました。
ただその為に、元々ブレヒトというちょっと斜に構えた作品が見えにくくなってしまった
かなと思えました。
アンナ役は大浦みずきさん。この芝居の中で何カ所か大浦さんがソロで歌うシーンがあった
のですが、さすが聞いている人間を引き込む力がありました。
アンナは息子達が兵士や出納係で徴兵された後、軍属の宣教師や料理番を車曳きに頼む
のです。
この時アンナは女を武器にしているのですが、大浦さんは姉御肌っぽい雰囲気がありま
した。もしこれが吉田日出子さんだったら、甘え上手って感じになったのかもと思いなが
ら見ていました。
吉田さんが休演ということで、代役に立たれた大浦さんでしたが、全く違うタイプの女性
なので、両方比べて見ることができれば面白かっただろうなと思いました。
私の評価・・・まあまあ

5月

題名・・・「リビエールの夏の祭り」
作者・・・吉永仁郎
演出・・・中野誠也
劇団・・・俳優座
主演・・・川口敦子
男性・とてもよかった=11%・よかった=58%・まあまあ=25%・よくなかった=6%
女性・とてもよかった=21%・よかった=58%・まあまあ=18%・よくなかった=3%

1960年のフランス映画「かくも長き不在」を元に、昭和34年の東京鳥越を舞台にした
作品でした。
鳥越は戦災にあわず、戦前の下町の面影を残していました。そこにあるリビエールという
喫茶店には、戦争で夫を失った東田綾子がアルバイトの女の子を一人使って切り盛りして
いました。
戦争が終わって14年、帰ってこない夫はもう死んだものと思い、トラック運転手の恋人
もいる綾子だったのですが、ある日店の前をロシア民謡を口ずさみながら歩いているホーム
レスに、夫の面影を見つけ愕然としてしまうのでした。
その日から、綾子はそのホームレスのことが気がかりで、店の仕事もうわのそらになってし
まい、ホームレスの後を付けていくのでした。
そして彼の暮らしぶりを知り、それとなく彼に話しかけて、記憶喪失らしいということに
気が付きます。
こうやって徐々にホームレスと親しくなり、綾子は彼を店に誘います。
その日は鳥越神社のお祭で町は浮き立っていました。店に二人きりになった綾子は
戦前夫が好きだった料理やお菓子を出して、記憶を思い出させようとするのですが、
なかなか上手くいかないのです。綾子は彼になぜ記憶喪失になったのか聞き出し
ます。彼はシベリアの強制収容所にいたとき、線路工事で枕木を足に落とし怪我を
した人間を助けたため、ノルマが果たせなかったと思い切り殴られ、気が付いた
時には、奥地の収容所に向かう汽車の中で、名前も何もかも判らなくなっていた
と語るのでした。
店を出ていこうとする彼に向かって、トラック運転手の男が「東田達也」と命令口調
で叫んだ途端・・・。
元々フランス映画が原作であるということと、主役の川口敦子さんの持ち味がマッチ
していて、東京の鳥越が舞台でありながら、どことなくフランスの片田舎の出来事の
ようにも思えました。
ホームレスの男を演じたのは中野誠也さん。頭に障害を受けた役作りで、感情の動き
を極力抑え、淡々とした物腰・口調がラストのクライマックスを際だたせる効果を
生んでいたのではないでしょうか。
私が拝見したのは5月20日(日)だったのですが、ラスト男が店を出ていこうと
して綾子と見つめる緊迫した場面で、客席で携帯の着メロが鳴り響いてしまいまし
た。京都会館は古いし第2ホールの方は携帯の着信を防御する装置が付けられてい
ないので、不思議と肝心の場面で着メロが鳴ってしまうのです。
折角2時間かけてクライマックスまで盛り上げてきて、着メロに邪魔されるなん
て、他人事とはいえ労演会員の一人として役者さん達に申し訳ない気にさせられて、
後味が悪くなってしまいました。
私の評価・・・よかった

4月

題名・・・「天国までの百マイル」
作者・・・浅田次郎
脚本・・・八木柊一郎
演出・・・原田一樹
劇団・・・文化座
主演・・・米山実
男性・とてもよかった=35%・よかった=47%・まあまあ=17%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=44%・よかった=48%・まあまあ=8%・よくなかった=0%

諸般の事情により、例会を休んでしまいました。
悪しからず、ご了承くださいませ。

3月

題名・・・「ドライビング ミス デイジー」
作者・・・アルフレッド ウーリー
演出・・・丹野郁弓
劇団・・・民芸+無名塾
主演・・・奈良岡朋子 仲代達矢
男性・とてもよかった=46%・よかった=41%・まあまあ=11%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=63%・よかった=32%・まあまあ=4%・よくなかった=1%
ランキングの目安・・・10位

新劇界というよりも日本演劇界の重鎮奈良岡朋子・仲代達矢ががっぷり四つに組んだ
作品。
本当に面白かったです。こんな凄い顔合わせの芝居を見ることができて、労演の会員で
よかったなと久しぶりに思いました。
アカデミー賞を受賞した作品だったので、だいたいの雰囲気は知っていましたが、背景に
アメリカ社会の複雑さがこんなに絡んでいるものだとは知りませんでした。
裕福なユダヤ人のデイジーは新車を運転していて、車庫と車を大破させてしまう。それを
見かねた息子が運転手を雇うことにしたのですが、黒人に少なからず偏見を持つデイジー
は雇われてきた運転手・ホークをどうにかして辞めさせようとします。
ホークは以前もユダヤ人のところで働いていた経験があったので、わがままな老婦人を
巧くあやしながら、運転手として働き続けます。そしていつの間にか、デイジーの心の
支えとなっていきます。
この作品を書いたのが、ユダヤ人なので、ユダヤ人のこだわりや生活感が生きていて、
面白かったです。デイジーは今は裕福なのですが、周りから裕福と見られることに
抵抗があったり、常に昔貧しかった頃のことを持ち出して、細かく節約したりするのが
嫌みにならず、可愛いいのは奈良岡さんの力があってこそだったのではないでしょうか。
仲代さんのホークは、デイジーに何を言われても柔軟に対応し、デイジーを優しく包み
込んでいるようで、この器の大きさが素晴らしかったです。
私の評価・・・とてもよかった

1月

題名・・・「八月の鯨」
作者・・・デヴィッド・ベリー
演出・・・菊池准
劇団・・・昴
主演・・・久保田民絵
男性・とてもよかった=13%・よかった=42%・まあまあ=32%・よくなかった=13%
女性・とてもよかった=11%・よかった=55%・まあまあ=27%・よくなかった=7%

機関誌の解説によると1978年頃この作品は書かれたそうです。
舞台はアメリカの避暑地、1954年の夏の2日間。リビーとセーラの姉妹は二人とも
旦那に先立たれていました。姉リビーは緑内症を煩い目が不自由になっており、その身の
回りの世話をセーラがしていたのでした。
リビーは自分の目が不自由になり、老いていく事や死への不安とひとりぼっちにされるのでは
という恐れの気持ちとは裏腹に口を開けば毒舌をはいてしまうのでした。
セーラはそんな姉に振り回されながら、子供の頃に見た鯨が来ないかとベランダから海を
見るのを楽しみにしていました。
この二人だけの生活に、ロシアの亡命貴族・マラノフを食事を招いたことで、二人の気持ち
が動きます。鯨を待ち続けていたセーラは現実に目覚め、将来に希望を持ち始めたリビーは
鯨が来ると言い始めます。
この芝居の幕間に口から出た言葉は「難しい・・・」でした。
芝居によっては後半面白くなるものもあるのですが、もうずっと難しいまま終わってしま
いました。それはこの芝居が書かれた1978年という時代の風潮だったのでしょうか。
私の評価・・・まあまあ

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