新劇通信簿

2004年の例会(私のコメント付き)


1月2月4月6月7月9月10月・11月

11月

題名・・・「三人吉三巴白浪」
作者・・・河竹黙阿弥
劇団・・・前進座
主演・・・藤川矢之輔
男性・とてもよかった=38%・よかった=51%・まあまあ=10%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=42%・よかった=43%・まあまあ=14%・よくなかった=1%

河竹黙阿弥の代表作の歌舞伎芝居を3時間に整理し直してありました。
ですから歌舞伎の常套手段である枝葉のストーリーがカットされていて、現代人にも判り
易かったのではないでしょうか。特にこの三人吉三という物語は因果応報を主要テーマに
芝居が展開していくので、メインのストーリーだけでも複雑なのです。
例えばお坊吉三は和尚吉三の父・土左衛門を百両貸す貸さないの争いで殺してしまうのです
が、実はお坊吉三の家が没落したのは、土左衛門がお家の重宝・庚申丸という刀を盗んだ
ために起こったことであり、知らずに親の仇を打ったことになっていたり、土左衛門が
はらみ犬を切ったために、土左衛門の双子の兄妹が畜生道に陥ってしまったりと、実は
こうだったんですよと複雑に絡み合った因果応報が種明かしされる度に、ここまでよく
捻って芝居を作ったものだと感心してしまいました。
関西ではあまりこの「三人吉三」を通しで上演されることはなく、いわゆる「厄落とし」と
呼ばれる和尚・お坊・お嬢の三人が出会う発端の場面だけを上演するミドリの形式が多いと
思います。ですから百両を持っていたがためにお嬢吉三に大川に蹴落とされる夜鷹おとせなど
本当に端役で、ちゃんとしたセリフもあるかないかくらいなのです。
それを思うと、前進座の場合、丁寧に演じてくれるので歌舞伎になれていない人でも、ストー
りーをつかみやすいのではないかと思います。
実は瀬川菊之丞の歌舞伎での演技を一度じっくり拝見してみたいと思っていましたので、
お坊吉三の熱演に満足させてもらいました。河原崎國太郎が演じたお嬢吉三は男なのですが
子供の頃かどわかされて芝居小屋に売られ、それからずっと女形の姿で暮らしているという
設定だったのですが、男とばれた後でも男っぽい演技をせず、女形の雰囲気を崩さずに演じ
ていたので、大人しい感じがしました。
私の評価・・・よかった

10月

題名・・・「僕の東京日記」
作者・・・永井愛
演出・・・安井武
劇団・・・俳優座
主演・・・蔵本康文
男性・とてもよかった=12%・よかった=47%・まあまあ=33%・よくなかった=8%
女性・とてもよかった=11%・よかった=51%・まあまあ=33%・よくなかった=5%

久しぶりに俳優座でおもしろい芝居を見たなぁと思いました。70年代の東京の下宿屋が
舞台になっていました。反戦おでん屋を営んでいる学生運動家のカップル。ホステスのアル
バイトをしている新劇女優。公認会計士の試験勉強中のサラリーマン。東京都の地方公務員
をしながらヒッピーをしている男とその二人の女友達。引きこもりがちで野良猫だけが友達の
女の子。暴力団にあこがれている洗濯屋のお兄ちゃん。そして管理人のおばさん。
こんな住人たちが毎日どたばた騒ぎを起こしているのですが、そこへ子離れしない母親から
逃げるように引っ越してきたのが、東京山の手に住んでいるお坊ちゃんの大学生。
この大学生が主人公で、どうも周りに流されやすい性格の為、下宿人たちが引き起こす騒動に
否が応でも巻き込まれてしまうのです。
70年代といえばまだ小学生くらいだった私は、新聞やテレビでの報道でしか学生運動の
興亡を知らなかったのですが、学生運動が先鋭化し瓦解していく中で、ゲリラとなって闘い
続けるか、平凡な人生を選ぶのか学生たちはそれぞれの岐路に立たされていたことを知りま
した。またヒッピーも当時の世相の一つとしてしか知らなかったのですが、その思想は現在
でも生き続けて共感を得るものであったことを知りました。
永井愛の作品は、どたばたの笑いの中に70年代への郷愁と時代の苦悩を上手く描いていた
なぁと感じました。そして芝居を見ている最中に荒井由美の「いちご白書をもう一度」という
曲を思い出していました。
私の評価・・・とてもよかった

9月

題名・・・「怒りの葡萄」
作者・・・ジョン・スタインベック
脚色・・・フランク・ギャラーティ
演出・・・ジョン・ディロン
劇団・・・劇団昴
主演・・・宮本充
男性・とてもよかった=23%・よかった=43%・まあまあ=28%・よくなかった=6%
女性・とてもよかった=27%・よかった=48%・まあまあ=19%・よくなかった=6%

途中までなぜジョード一家が生まれ育った土地を捨てて、カリフォルニアへ行かなければ
ならなかったのか、全然判りませんでした。幕間の休憩で機関誌に挟まれていた観劇前の
とっておき情報というチラシを読んで、やっと後半納得して芝居を見ることができました。
「怒りの葡萄」は1929年に始まった大恐慌とジョード一家が住んでいたオクラホマが
干ばつと砂嵐で農地が消滅してしまったために、なけなしのお金から買った中古のトラックに
詰めるだけの家財道具と13人の家族を乗せて、カリフォルニアに向かわざるを得なかったの
です。70年前のアメリカを舞台にした話であり、私にとっては祖父の時代の話だったのです。
ただ今回の「怒りの葡萄」は脚本も演出も日本人でなかったことが、芝居の導入に不親切だっ
たのかもしれません。
たぶんアメリカでは誰一人知らないものはないくらい(ひょっとすると教科書に載ってるかも
しれません)の作品であり、題名を聞くだけでその世界観を理解できていると思うのです。
しかし私は「怒りの葡萄」がアメリカの有名な作品の一つとして知っていただけだったので
迷いながら見ていたため、そこに引っかかってなかなか作品に入り込めなかったのです。
この家族を一つにまとめていた母の姿が素晴らしかったです。母は家族が常に一つでなければ
生き残っていけないと、必死で支えようとしているのですが、あまりにも苦しい現状に一人
一人と離れていってしまいます。
初めは家族は一つでなければと思ってみていた私も、家族の行く末に果たしてジョード一家
の選択は正しかったのか、働き手の男たちだけがカリフォルニアに出稼ぎにいくことで家族
全員がどん底に落ちることにならなかったのではないだろうかと疑問を抱いてしまいました。
私の評価・・・まあまあ

7月

題名・・・「新・ワーグナー家の女」
作者・・・福田善之
演出・・・福田善之
劇団・・・木山事務所
主演・・・たかべしげこ
男性・とてもよかった=9%・よかった=46%・まあまあ=39%・よくなかった=6%
女性・とてもよかった=13%・よかった=42%・まあまあ=40%・よくなかった=5%

もうたかべしげこの力量の素晴らしさにつきるのではないでしょうか。これだけ力強い
芝居ができなければ、ヴィニフレッド・ワーグナーの誇りを支えることはできなかったのでは
と思います。
場面は第2次世界大戦後のドイツ、連合国軍によりナチス協力者を裁く席にヴィニフレッドが
呼ばれる所から始まります。ヴィニフレッドはイギリスに生まれ、両親がが亡くなったため、
15歳まで孤児院で暮らしていました。そしてドイツの親戚に引き取られ大ワーグナーの息子
ジークフリート(46歳)と18歳で結婚することになったのでした。
ワーグナー家にはリストの娘でジークフリートの母・コジマが実権を握り、大ワーグナーの楽劇
だけを上演するバイロイト祝祭劇場を取り仕切っていました。
1930年に母コジマと夫ジークフリートが相次いで亡くなったため女手一つでバイロイト
劇場を取り仕切らなくてはならなくなったのですが、ドイツは第1次世界大戦後で荒廃し猛烈な
インフレーションで人々が苦しめられていた時代だったのです。
そこでヴィニフレッドは大ワーグナーを信奉していたヒットラーと結びついていったのです。
ヴィニフレッドに対するのはアメリカに亡命していた娘のフリーデリントでした。
誇り高きワーグナー家の母と娘の確執は、一族の枠だけでは収まらず、世界史の裏側までも
暴き出していきました。若き未亡人ヴィニフレッドとヒットラーの関係を匂わせたりします。
こういう話は、クラシックファンならもう周知の事実だったかもしれませんが、私は初めて
聞いた話だったので、へぇ〜と思ってしまいました。そして映画「地獄の黙示録」でワーグナー
の「ヴァルキューレの騎行」が使われていた意味も、理解できました。
たかべしげこ渾身の一作、おもしろかったです。
私の評価・・・よかった

6月

題名・・・「赤シャツ」
作者・・・マキノノゾミ
演出・・・宮田慶子
劇団・・・青年座
主演・・・横堀悦夫
男性・とてもよかった=28%・よかった=54%・まあまあ=16%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=32%・よかった=49%・まあまあ=18%・よくなかった=1%

もう日本人なら誰でも知っている「坊ちゃん」という小説を舞台化するのなら、これくらい
視点をずらさないとおもしろい作品とはならないでしょう。マキノノゾミの感性に脱帽させられる
作品だったのではないでしょうか。
原作の「坊ちゃん」では、世間知らずで無鉄砲な坊ちゃんの視点で全てが捕らえられている
ので、教頭の赤シャツも権威をかさに着た本当に嫌な奴なのですが、マキノノゾミは赤シャ
ツを事なかれ主義の風見鶏な性格で描いていました。
本当は嫌な奴と嫌っている“野だいこ”がすり寄ってきたり、たった一人の友人だと思って
いる“うらなり”が生活が苦しくてマドンナと婚約破棄し、マドンナの方が積極的に赤シャツ
に言い寄ってきていても、町中から赤シャツは“うらなり”からマドンナを奪ったと噂され
てしまうなど、全てのことが自分の思いとは反対に実現してしまい、右往左往させられて
しまうのです。ただでさえ、坊ちゃんの前任者が遊郭の女郎を足抜けさせてしまうという
中学校の教師としてあるまじき行為を犯し、世間の目を引いてしまっているのに、何事にも
無鉄砲な坊ちゃんが着任してきて、ますます胃が痛くなる日々を赤シャツは送っているので
した。
マキノノゾミはただ赤シャツが振り回される姿だけを描いただけではなく、日露戦争に勝利
はおさめたが、その影で小鈴の弟や家政婦のウシの息子が戦死していたり、戦争忌避する
ためにコネを使って北海道市民に籍を移した赤シャツ、その事に反抗して広島の幼年学校
に入学して軍人になろうとする弟など明治時代庶民の悲しみを違和感無く書き込んでいまし
た。
赤シャツ役の横堀悦夫のどことなくなよなよした役作りが嫌々振り回される姿を増幅させて
おもしろかったのではないでしょうか。
私の評価・・・よかった

4月

題名・・・「すべて世は事も無し」
作者・・・ポール・オズボーン
演出・・・加藤健一
劇団・・・加藤健一事務所
主演・・・加藤健一
男性・とてもよかった=20%・よかった=48%・まあまあ=31%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=28%・よかった=52%・まあまあ=19%・よくなかった=1%

小さな町に住む4人の老姉妹、四女のアリー以外は結婚しており、アリーは
次女のコーラ夫妻と暮らしていました。既に第一線から引いている人たちなので、これと
いってすることもなく、日永一日自分たちの身の回りに起こる些細な出来事に一喜一憂
する日々が続いていました。この4姉妹のうち次女コーラと三女アイダは隣同士に住んで
いて、長女だけが少し離れた所に住んでいるという設定になっていました。
実のところ私の母の姉弟が女4人男1人という構成なのです。この4姉妹のように目と鼻の
先に住んでいるというわけではないのですが、舞台上で繰り広げられる姉妹の騒動を見て
いるとまるで叔母たちの姿を見ているようでおかしくて堪りませんでした。
女の兄弟が多いとあんな感じになるのかもしれませんね。それにうちは叔父の嫁まで絡んで
くるので、少々話がややこしくなったりするのですが。
やっぱり長女は全てを仕切ってるし、なんやかんやいっても末娘はいくつになっても甘えた
ですし。長女の夫デイビッドが長女のエスティに「二度と姉妹達と付き合ってはいけない、
もし付き合ってるところを見つけたら、家庭内別居をする」と言い出したのも、きっと結婚
して以来ずーっとこの姉妹のごたごたに巻き込まれてきたんだろうなぁと同情してしまいま
した。
自分の夫とアリーの関係を50年くらいずーっと疑ってきたコーラの自然と身に付いてしま
ったような見て見ぬ振り。仲が良さそうに見える3人なのに、孤独の心を持ち続けるコーラの
演技が素晴らしかったと思いました。
それに長女役の山口果林さん、テレビでは知的で冷静な役が多いので、途中まで全然山口さん
と気が付かずに見ていました。それほどお茶目で可愛いおばあちゃんでした。
私の評価・・・よかった

2月

題名・・・「風の中の蝶たち」
脚本・・・吉永仁郎(山田風太郎原作による)
演出・・・戌井市郎
劇団・・・文学座
主演・・・加藤武
男性・とてもよかった=18%・よかった=49%・まあまあ=29%・よくなかった=4%
女性・とてもよかった=14%・よかった=53%・まあまあ=30%・よくなかった=3%

この作品、まず原作を読み、雑誌に掲載された脚本を読んでから舞台を見ました。
脚本を読んだときに、すっかり山田風太郎らしさが消え、新劇にありがちな雰囲気になって
しまっていました。もうそこら辺りから不安を感じていたのです。
労演の機関誌には、上記のように脚本 吉永仁郎(山田風太郎原作による)となっていま
した。山田風太郎原作の世界と登場人物、事件を使って構成しなおしたと開き直ってしま
ったということなのでしょうか。
存在するのかしないのか原作の中では謎に包まれていた闇の目組が狂言回しとして表に
現れ、脇役だった南方熊楠が道化役として笑いを取る重要な役として使われ、途中までは
この芝居の主役は南方熊楠か?と見えるほどでした。
それにしてもくだくだと説明が長く、これは私が原作や脚本を先に読んでしまっているから
そう感じるのかと思っていたのですが、一緒に見ていた友人(何も読んでいない)も同じ事を
感じていたようでした。
歴史の流れが知りたくてこの芝居を見に来たのではありません、それならたぶんNHKの
「その時歴史が動いた」のほうが面白いに違いありません。
この芝居には青春の覇気・熱情・狂気が全く感じられませんでした。武力革命が日本を変えると
純粋に信じていた青春のエネルギー。例えば私が子供の頃テレビや新聞で毎日のように学生
運動の盛り上がりと内部抗争・瓦解の歴史を見てきました。その興亡を明治の民権運動とダブ
らせてこの芝居を作り上げていけば、もっと緊迫感のあるものになったのではないでしょうか。
私の評価・・・よくなかった

1月

題名・・・「ステッピング・アウト」
作者・・・リチャード・ハリス
演出・・・竹邑類
劇団・・・ピュアーマリー
主演・・・前田美波里
男性・とてもよかった=35%・よかった=51%・まあまあ=22%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=51%・よかった=38%・まあまあ=9%・よくなかった=2%

何に目が向くと言って前田美波里さんのスタイルの良さと足の長さとダンスの素晴らしさ。
プロだなぁと感服してしまいました。
木曜の夜に集まって、タップダンスを趣味で習うために集まってくる人たちの人生模様を
織り交ぜながら、発表会に向かって一つの作品を作り上げていく話です。
男と女の話って洋の東西を問わないんですね。七年前に一度だけヒット曲を出したひもの
ような彼氏と同棲しているタップダンスの先生メイヴィス。旦那の家庭暴力に悩むアンディ。
自分よりも自分の連れ子と仲良くしすぎる旦那に悩むヴェラ。この3人が歌う「それでも
あなたを愛している」というナンバーが良かったです。
今までミュージカル風の芝居は多々ありましたが、こんなに本格的なミュージカルは労演では
初めてだったかもしれません。
マクシーン・ローズ・シルビア・ドロシーの4人が宝塚でもよく使っているオーストリッチの
羽の扇を使って歌うシーンがあったのですが、宝塚出身の女優さんは扇の使い方が上手い
のですぐに判りました。
今回私が注目したのがシルビア役の楓沙樹さん。最後の全員での完璧なタップダンスの時は、
もう列の左端におられた楓さんしか見ていませんでした。
私の評価・・・とてもよかった

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