新劇通信簿

2003年の例会(私のコメント付き)


1月3月5月7月8月9月11月

12月

題名・・・「ケプラー あこがれの星海航路」
作者・・・篠原久美子
演出・・・高瀬久男
劇団・・・青年劇場
主演・・・清原達之
男性・とてもよかった=10%・よかった=40%・まあまあ=35%・よくなかった=15%
女性・とてもよかった=15%・よかった=36%・まあまあ=40%・よくなかった=9%

「ケプラーの法則」学生時代に習いましたね。でも名前しか覚えていません(涙)。一体どんな
法則だったのやら。ケプラーがどんな家庭環境で育ち、どんな時代に生きていたのか
そんなことは教科書には一行も載せられていませんでしたから、この芝居を学生時代に
見ていたら、もっと「ケプラーの法則」に興味を持つことができたかもしれません。
篠原久美子+高瀬久男の描き出したケプラーの世界はちょっと漫画風でありました。
でも判りやすかったです。ケプラーの人生をその当時の考証に正確に舞台化していたら、
辛すぎて見られなかったかもしれません。
400年前、日本だと織田信長や豊臣秀吉が活躍していた時代。ヨーロッパもまた戦国
時代だったようです。国と国との争いにカトリックとプロテスタントの宗教問題も絡み、
庶民が生きにくい時代だったようです。
そんな時代に簡単な観測機械と紙とペンだけで、現代にも通じる法則を筆算から導き出した
のですから、もう天才としかいいようがないです。
その自分の業績に対して、「それは枝葉末節です」と言ってしまうところが天才の天才たる
ところかなぁなどと思ってしまいました。
ケプラーの才能を見いだしたメストリン教授の広尾博さんの変な関西弁が愛嬌がありました。
そして弟ハインリヒと彼の守護天使の凸凹コンビも楽しませてくれました。
見終わったあとに「ロマンチックだねぇ」と空を見上げました。
私の評価・・・まあまあ

11月

題名・・・「八月に乾杯!」
作者・・・アルブーゾフ
演出・・・袋正
劇団・・・俳優座
主演・・・岩崎加根子
男性・とてもよかった=28%・よかった=50%・まあまあ=17%・よくなかった=3%
女性・とてもよかった=38%・よかった=46%・まあまあ=14%・よくなかった=2%

ある夏、保養所に一人の女性リーダがやってきます。彼女は元女優で現在はサーカスの
チケット売場で働いている天真爛漫な人でした。彼女はあまりにもマイペースなため
保養所中の他の患者達からも迷惑がられていたました。
保養所の医者も初めは彼女のペースに混乱するのですが、彼女の可愛さにだんだん
惹きつけられていきます。
この二人にも深い心の傷がありました。医者は第二次大戦中軍医として前線で働いていた
のですが、彼の妻も外科医であったため軍医として前線に行っていたため戦死してしまっ
たのです。
リーダのほうも1番目の旦那との間にできたひとり息子が終戦間近に18歳の若さで戦死
していました。2番目の旦那は女優として限界が見えた彼女のためにサーカスを作って
彼女と公演して廻っていたのですが、後で入ってきた若い女に取って代わられて
しまって10年前に別れていたのでした。
訳と演出は俳優座の役者・袋正さんです。長年同じ劇団にいたからこそできた芝居では
ないでしょうか。
頑固な医者役の小笠原良知さんも可愛いリーダ役の岩崎加根子さんもぴったりの配役
だったと思いました。
リーダは最後にこう言います。「きっとこの人に会うために生きてきたんだ」と。
私は瞬間的にこの女性は最初の旦那に出会ったときも二番目の旦那に出会ったときも
きっとそう思ったに違いないと感じました。
そういうあっけらかんとしたリーダという女性の明るさと強さが素敵でした。
私の評価・・・まあまあ

9月

題名・・・「森は生きている」
作者・・・マルシャーク
演出・・・仲代達矢
劇団・・・無名塾
主演・・・仲代奈緒
男性・とてもよかった=35%・よかった=41%・まあまあ=21%・よくなかった=3%
女性・とてもよかった=43%・よかった=43%・まあまあ=12%・よくなかった=2%

もともと西欧の童話は悲惨な状況にヒロインが置かれていることが多く、「森は生きている」
の末娘もその例に漏れず、孤児だった彼女がどういう訳か森に住む母娘の元に
引き取られて暮らしてはいたのですが、使用人同然にこき使われていました。
その末娘を常に見守ってきたのが森の12ヶ月の精でした。自分の欲望ばかりに
こだわり自然の掟までを狂わそうとする人間には天罰を下し、自分の分をわきまえ
自然と共存しようとする人間には願いを叶えてやろうとするのです。
芝居の雰囲気としては元々子供向けのファンタジーだからなのか登場人物の性格設定
がアニメっぽいような感じがしました。
健気な末娘役の仲代奈緒・わがままな女王役の山本雅子・意地悪な姉娘役の渡部晶子。
この3人のがんばりが素晴らしかったです。
そして12ヶ月の精の中で特に目立ったのが3月の精役の真矢武。ダンスも歌も上手く
舞台上の立ち姿にも神経が行き届いていて、最初はミュージカル専門の役者かと思って
いたら、ジャパンアクションクラブ出身の役者でした。
真矢武以外にも1月の精役にはオペラ出身でミュージカル中心に活躍している佐山
陽規など、普段の労演ではあまりお目にかかれない役者たちが出ていました。
まさに適材適所と言った配役だと思いました。仲代達矢は老兵士の役で脇役に廻って
いたので、仲代を見たいと思っていた人にはちょっと寂しかったかもしれませんが、
舞台全体を包み込むような大きな優しさが感じられました。
私の評価・・・とてもよかった

8月

題名・・・「若夏(うりずん)に還らず」
作者・・・堀江安夫
演出・・・佐々木雄二
劇団・・・文化座
主演・・・橘憲一郎

この芝居、なかなか面白い導入方法を採っていました。BC級戦犯田口泰正を主人公とした
芝居を書こうとしている堀江という男が田口の本心を掴みあぐねているところに、田口の幻
が現れるのです。そして現代人的な正義感をもって田口に本音をしゃべれと迫るのですが、
田口は答えあぐねて、自分が生きた時代に一緒に行かないかと誘うのです。
それにしても堀江という男、嫌な奴なんです。初めに田口に向かって大口たたいていた
くせに、いつの間にか誰がその場の権力者であるかかぎわけ腰巾着になって、まわりの
鼻つまみ者になっても平然としていられる人間でした。
いくら幻の世界とはいえ、田口を始めとする戦前の日本人を浮かび上がらせるためとは
いえ、あんなに強烈に嫌な人間というのはなかなか芝居でもお目にかかれないんじゃ
ないでしょうか。
この芝居を見ながら頭の中に浮かんだことは、毎日のようにニュースで取り上げられて
いる某国のことでした。
そして私が以前勤めていた会社で起こったごたごたの事なども思い出していました。
トップに立つ人間が結構したい放題でこれはいかんだろうと思われるような非道な事を
していても、下にいる者としては社命として受けざるを得ない事もあるんですよね。
会社なら辞めることもできるけど、それが国家となったら軍隊となったら逃げ場がない
んだなぁと身にしみて感じてしまいました。
私の座っていた席の前に、かなり高齢のおじさまたちが4〜5人座っておられました。
幕間の休憩中にボタンの数がどうの、肩章の柄がこうのと話し合っておられました。
どうも元軍人の方々だったようで、やはり厳しい縦社会で生き抜いてこられただけのこと
はあるようで、なかなか階級にはうるさいようでした。
私の評価・・・よかった

7月

題名・・・「頭痛肩こり樋口一葉」
作者・・・井上ひさし
演出・・・木村光一
劇団・・・こまつ座
主演・・・有森也実
男性・とてもよかった=38%・よかった=47%・まあまあ=13%・よくなかった=0%
女性・とてもよかった=58%・よかった=36%・まあまあ=6%・よくなかった=0%

この作品も井上ひさしの名作の一つです。だから労演以外で見たことある人もたくさん
おられるとは思うのですが、私自身は初めてとなりました。
もう何回も上演されていると言うことは、現代演劇の古典と呼んでもいいのかもしれません。
井上作品ではその独特のブラックユーモアが私を楽しませてくれるのですが、この芝居では
中野八重がまるで歌舞伎の世話物に登場するヒロインを意識して書いたような立場に置かれて
いたのが面白かったです。
裁判所の判事の妻として玉の輿に乗ったと思われていた八重でしたが、旦那には愛人が
おり妾宅が構えられていて、そちらに子供ができた途端、旦那から冷遇されて、それでも
樋口家に集まる人々に励まされて我慢することにしたのに、翌年のお盆にみんなが集まると
八重は身なりもすっかり水商売の女に換わってしまっていたのです。そしてよくよく話を
聞くと稲葉鑛の再婚相手の旦那が八重に入れあげていることが分かってしまいます。
ほんの数分前、前年の設定時には浮気された妻の胸の内を切々と訴えていたのに、1年後に
は水商売女の心得をとうとうと述べ立てている所など、こういう見ている側の常識を覆す
芝居運びが井上ひさしの作品の癖になるところなのだなぁとつくづく思ってしまいました。
宝塚歌劇卒業後、2回目の観劇となる久世星佳。歌い方があの頃と全然変わって無くて、
ちょっと懐かしくなってしまいました。
それにしても、この舞台上の6人の女性達、仲が良いんだろうなというのがどことなく感じ
られて、そのアンサンブルの良さがすてきでした。
私の評価・・・よかった

5月

題名・・・「夏の夜の夢」
作者・・・シェイクスピア
台本・・・ベリャコーヴィチ
演出・・・ベリャコーヴィチ
劇団・・・モスクワ ユーゴザーパド劇場
主演・・・アレクセイ・ワーニン
男性・とてもよかった=23%・よかった=42%・まあまあ=27%・よくなかった=8%
女性・とてもよかった=26%・よかった=38%・まあまあ=27%・よくなかった=9%

「夏の夜の夢」の主演って一体誰なんでしょう。シーシュス公爵?ハーミヤ?パック?
いつも悩んでしまいます。
アテネの人間界の人たちが現れるときはクラシックが使われているのですが、やっぱり
似合いますねぇ。堂々としていてクラシックの持つ重厚さに全然負けていません。
それに対して森の妖精達が登場するところにはバリ島のケチャが使われていて、ケチャに
あわせて身体を小刻みにふるわせながら踊るところなど、森の妖精に原始的というか
人間の価値観とは別の生き方・考え方を持っているところを視覚的に表現していたと思い
ました。
実は今回のイヤホンガイドはかなり棒読み的なものだったので、聞いているうちにどんどん
眠たくなってきてしまい、ロシア語は全く判らないのですが、「夏の夜の夢」自体は何度も
見ているものなので、途中からイヤホンガイド止めてしまいました。
幕間の休憩の時に隣に座っておられたこの例会のイヤホンガイドのお世話をしてくれてる
方が、「イヤホンガイドと字幕とどちらがいいんでしょうねぇ?」と声をかけてくださいま
した。私は「シェイクスピアはセリフが多いので字幕だとたいへんじゃないですか」と答え
たのですが、外国の劇団を観劇する時の問題点はなかなか解消されそうにはありません。
パックという役は日本人の感覚ではキューピッドのイメージがあるので女性がやる場合が
あるのですが、今回は堂々たるナイスバディな男性で、悪魔のような道化のような感じ
でした。これが西欧でのパックの定番イメージなのかどうかは分かりませんが、ちょっと
面白く感じました。
私がイヤホンガイドを外してしまってたからかもしれませんが、なんとなく最後は締まりが
無いような終わり方だった気がしました。まぁ夢の話なのでそんなものなのかもしれませんが。
私の評価・・・まあまあ

3月

題名・・・「はなれ瞽女おりん」
作者・・・水上勉
演出・・・木村光一
劇団・・・地人会
主演・・・有馬稲子
男性・とてもよかった=50%・よかった=40%・まあまあ=10%・よくなかった=0%
女性・とてもよかった=65%・よかった=28%・まあまあ=6%・よくなかった=1%

以前NHK教育テレビで有馬稲子さんがインタビューを受けておられていたときに身体が動く
うちにもう一度「はなれ瞽女おりん」を演じたい。しかしもう3回(だったと思います)もこの芝居
で全国を回っているので、もう呼んでもらえないかもしれないとお話しされていました。
有馬さんがこの芝居をこれほどに愛しておられ演じたいと思っておられるのだから是非実現し
たらいいのにと思っていたので京都にこの芝居が来ることになって本当に嬉しかったです。
有馬さんがどこかの劇団の大幹部女優だったらこんな思いもせずに、再演を繰り返すことが
できたかもしれないのに、プロデュース公演の悲しさか全国の演鑑に売れなければどんな良い
芝居であっても埋もれてしまうかもしれないのが残念でなりません。
ここ最近再演物の舞台が年に1度はあり、いずれも初演の感動を呼び覚ますほどの成果を
上げたとは言い難い物ばかりだったのですが、今回は違いました。素晴らしかったです。
年齢を重ねても枯れることのない有馬さんの華と張り。今回は席が真ん中の列の最後尾
だったんですがその席にまでもびんびんと伝わってきました。
京都労演では約20年ぶりの再演で、私自身が20年の歳月を経て、おりんの孤独な心
(仏教用語で言う渇愛)を理解して見られるようになった分、感動が深まったのだと思います。
「はなれ瞽女おりん」という芝居は後生に残していかなければならない一本ではないで
しょうか。
私の評価・・・とてもよかった

1月

題名・・・「坊ちゃん」
作者・・・夏目漱石
脚本・・・福田善之
演出・・・福田善之
劇団・・・俳優座
主演・・・増沢望
男性・とてもよかった=8%・よかった=42%・まあまあ=42%・よくなかった=8%
女性・とてもよかった=7%・よかった=43%・まあまあ=40%・よくなかった=10%

「坊ちゃん」といえば原作は元よりテレビドラマで見たりもしていますので芝居が進むにつれて、
そうそうこんな話もあった、あんな話もあったと思い出させてくれました。
そんな話なので手垢がしっかりついてしまっていて、ミュージカル仕立てとはいえ、新味が
無かったのが残念な感じでした。
坊ちゃん役の増沢さんと山嵐役の田中壮太郎さんがさわやかで歌が上手かったこと、春代役の
早野ゆかりさんが元気だったことくらいしか印象に残っていません。
それにしても俳優座の若手の皆さんは歌も踊りも昔のことを思えば上手にこなしてますよね。
現代の新劇俳優には必須の条件になってきたということでしょうか。
私の評価・・・まあまあ

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