新劇通信簿

2001年の例会(私のコメント付き)


1月2月4月5月7月9月10月

12月

題名・・・「罠」
作者・・・ロベール・トマ
演出・・・高橋昌也
劇団・・・五五の会
主演・・・山本學
男性・とてもよかった=33%・よかった=50%・まあまあ=15%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=45%・よかった=44%・まあまあ=9%・よくなかった=2%

何を書いてもネタばれになってしまいますので、手短にコメントを。
サスペンスドラマの古典とでもいうべきでしょうか。今の時代なら、指紋がどうのDNA鑑定が
どうのなんてセリフが飛び交うところなのでしょうが、失踪したはずの妻の写真一枚も無い
なんていう筋書きは現在毎日放映されているサスペンスドラマではあり得ない話ですし、ちょっ
と見ていていらいらしてしまいました。
出演されていたのが手練れの面々で、どの人も怪しかったんですが、終わってみればやっぱり
サスペンスの常套手段でした。作者は見ている人間を罠にはめようと、あの手この手で仕掛け
てきます。京都労演では幕間の休憩時間に1幕目までを見た段階で犯人あてクイズをしました
が、私は作者の罠にすっかりはまってしまい、いったい誰が犯人なのか判らず、犯人は・・・
なんて考えずに役者の演技を楽しむ方に集中することにしました。そして気持ちよく騙されまし
た。
私の評価・・・よかった

10月

題名・・・「崩れた石垣、のぼる鮭たち」
作者・・・土田英生
演出・・・西川信廣
劇団・・・文学座
主演・・・加藤武
男性・とてもよかった=12%・よかった=50%・まあまあ=36%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=16%・よかった=46%・まあまあ=34%・よくなかった=4%

日本だけでなく世界中に雨が3年も降り続き、日本だってあと1年もすれば水没してしまうかも
しれないという時代のとある城下町の料理屋が舞台です。雨が降り続いているために食料は
配給制となっており、この料理屋もほとんど休業状態だというのに主人の父親の元教師が
中学卒業後30年になる同窓会を引き受けてしまうところから始まりました。
元担任に男4人女3人それに誰だかみんなが知らない男が1人集まりました。このクラスには
とても辛い思い出があったのです。遠足か何かで訪れた川で遊ぶうち、突然の大水で川の
中州に取り残されたミズトリ君が亡くなったのでした。楽しい同窓会が進むうちにも外では
相変わらず豪雨は降り続き、崖の上に立つ料理屋に来るために架かっていた橋が流されまし
た。
ひょっとすると崖が崩れて料理屋もろとも流されてしまうのでは・・・という事態になってしま
います。それはまるで30年前のあの事故の再現となってクラスメートがそれぞれに抱えた心の
傷を刺激するのでした。
この芝居は私に自分はミズトリ君なのかそれともミズトリ君を助けに行かなかったクラスメート
の一人なのかと問いかけてきました。弱い私はやはり我先にと川を渡る一人となってしまうに
違いありません。
労演の翌日、朝刊にえひめ丸で遭難し8番目に身元が確認された生徒さんの話しが載っていま
した。彼は事故当時甲板におり助かろうと思えば助かったかもしれなかったのだそうです。
でも彼は船内に残された先生のことをとても気遣っていたらしいということでした。
「崩れた〜」を見たばかりだったので、そして自分が弱い人間であることを自覚したばかり
だったので、この記事がずきずき胸に突き刺さってしまいました。この芝居を見ていて、涙
がこぼれることはありませんでしたが、新聞記事は思い出すだけで涙がこぼれてしまいます。
突きつけられた現実の重さに比べて、この芝居の結末は軽かったかもしれません。
と言うわけで、芝居に対しての評価はちと辛口かもしれませんが・・・。
私の評価・・・まあまあ

9月

題名・・・「闇に咲く花」
作者・・・井上ひさし
演出・・・栗山民也
劇団・・・こまつ座
主演・・・名古屋章
男性・とてもよかった=23%・よかった=59%・まあまあ=17%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=31%・よかった=53%・まあまあ=14%・よくなかった=2%

たぶん京都労演に「闇に咲く花」がくることは小泉さんが総理になる前から決まっていたと思う
のですが、なんだか時を合わせたように小泉首相の靖国神社参拝で今月の例会は一挙に
時事的になってしまったような気がしました。
私が前に住んでいたところには歩いて2〜3分くらいのところに小さな神社がありました。
境内には池がありちょっとした丘があって木がたくさん生えていました。だから子供たちの
遊び場で普段はひと気があまり無いのですが、夏祭りや秋祭りには夜店も2〜3軒でたり
青年団の人達がふとん太鼓を担いで町の中を練り歩き、氏子の中で小学校の高学年くらいの
女の子が臨時の巫女さんとなって、片手に鈴を片手に刀を持ってお神楽を舞ったりと地域の
住民のコミュニケーションの場でもありました。
今住んでいるところは近くに神社が無いし、秋祭りには子供たちがふとん太鼓を引いて来るの
ですがあまり活気がないのでちょっと寂しい感じがします。
だから「闇に咲く花」を見ていて、子供の頃のことを少し思い出していました。井上ひさしさん
は、この芝居の中で日本人にとって神社とは何か、私自身にとって神社とは何かと問うておら
れます。
とはいっても天の邪鬼な私は「死者を祀ったら神社ではない」と言うセリフを聞いて、『じゃぁ、
天神さんはどうなるの?お岩稲荷だってあるし、出雲大社だって』なんて心の中で突っ込んで
いました。非業の死を遂げた者の怨念を封じ込めるために神として祭り上げるのは平安時代
から朝廷の常套手段だし、そのような神社は探せば日本国中至る所にあるはずです。
(こんな事言ってしまったら芝居は成り立たないか)それに国策に従って、大政翼賛会的に
仏教教団が従軍僧侶を派遣していたという事実もあるし、現在の日本では宗教の話は微妙で
タブーなところもあるし、この芝居を見終わった後、このコメントを書くのめちゃめちゃ
難しいなぁと嘆息してしまいました。
私の評価・・・よかった

7月

題名・・・「アンネの日記」
作者・・・アンネ・フランク
脚本・・・ハケット&グッドリッチ
演出・・・丹野郁弓
劇団・・・民芸
主演・・・井上孝雄
男性・とてもよかった=30%・よかった=53%・まあまあ=16%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=44%・よかった=43%・まあまあ=11%・よくなかった=2%

この「アンネの日記」は一人生き残ったアンネの父オットーが隠れ家を訪ねて来るところから
始まりました。オットーは部屋にあった古びたマフラーを首に掛けるのです。そしてミープ
が保管していたアンネの日記を読み始めます。
この芝居のなかで私が一番胸を打たれたのが、ハヌカ祭りにアンネが皆の為にこっそり
用意していたプレゼント、お父さんのためのマフラーが首に巻かれたときでした。
初めのマフラーが伏線となってここに活かされたんだと思うとその演出のきめ細やかさ
にも感嘆!!
私が参加したのは7月22日だったのでアンネ役は藤田麻衣子さん・ペーター役は神敏将さん
でした。藤田アンネは笑顔が可愛くて元気な女の子でした。
2年以上に及ぶ狭い天井部屋で8人が暮らしていくという精神力やフランク一家を支え続けた
レジスタンスの人達の勇気など、我利我欲に日々流されて暮らしている私には到底真似でき
ないと気づかされてしまいました。
アンネの日記って確か中学校の国語の時間に習ったんでしたよね。あの当時には同世代の
女の子としての見方しかできませんでしたし、教材で取り上げられていたところしか読んで
いなかったですから、演劇というかたちで総合的にアンネの日記の世界を知ることや私自身
としては2回目(京都労演では4回目だそうです)ではありますが、年齢と共に見方が変わる
ことにも気づきました。これからも10年に一度位、民芸の「アンネの日記」を見続けていけ
ればいいなぁと思いました。
私の評価・・・とてもよかった

5月

題名・・・「無法松の一生」
作者・・・岩下俊作
脚本・・・西島大
演出・・・鈴木完一郎
劇団・・・青年座
主演・・・津嘉山正種
男性・とてもよかった=46%・よかった=36%・まあまあ=17%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=51%・よかった=40%・まあまあ=9%・よくなかった=0%

さすが帝劇の座長を勤めた経験を持っておられるだけのことはあると感心させられる程
スケールの大きな芝居を津嘉山さんは見せて下さいました。
幕が開いた途端、こりゃ京都会館では狭いなぁ、もう一回り大きい劇場でも良いんじゃない
かなと感じました。
さて、私自身は結構涙腺が緩い方でテレビでもお芝居でもこういう浪花節的なストーリーで
すぐにポロポロ泣いてしまいます。ご多分に漏れず今回も前半からかなりウェットになって
おりました。特に子役で敏雄を演じた常磐祐貴君がすごく上手で参ってしまいました。
本当に最近の子役はどうしてこんなに上手いんでしょう。後半で常盤君は熊吉の息子の役で
出てきて、「青葉の笛」を歌ったんですが前半の余韻もあって、常盤君が歌っているという
だけで、涙が出てきてしまうという事態に陥っておりました。
脚本の西島氏は敏雄の女友達の明子を創作し、良子(吉岡大尉の妻)と当時の女の生き方に
ついて討論させる場面を作ることによって、やっとこの「無法松の一生」に少し新劇の色を
加えることができました。私はこの芝居を見る前から「どうして今、労演で無法松の一生なん
だろうか」とずっと首を傾げていました。観劇中も心の中で「いくら感動の涙を流したとし
ても制作に対する疑問は別物」と思っていました。と言うわけで、林英哲さん作曲の祇園太
鼓が素晴らしくても、津嘉山さんの腕から肩にかけての筋肉が美しくても、津嘉山さんや
常盤君の熱演が胸を打っていても、上記の疑問が氷解しなかったので・・・
私の評価・・・よかった

4月

題名・・・「瀋陽の月」
作者・・・水上勉
演出・・・木村光一
劇団・・・地人会
主演・・・松山政路
男性・とてもよかった=51%・よかった=41%・まあまあ=7%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=64%・よかった=28%・まあまあ=8%・よくなかった=0%

水上勉さんの原作で木村光一さんの演出で中国残留孤児の話となれば何だか見る前から
今日は泣かせていただけるのかなと期待してしまいます。そして期待どうりにホロッと
させていただきました。「落葉帰根」・・・木の葉は落ちて元の根に戻る。主人公刀根剛の母
は苦労の末に日本に帰り、日本の地で亡くなり、中国人の父は生まれ育った瀋陽の地で亡く
なり、国境開拓団で全滅したと思われていた実の父も戦後日本の故郷の地で亡くなっていた。
しかし剛には帰るべき根が無いのです。瀋陽に来る日本人観光客相手に饒舌に話しかける剛
の最後の姿、次の観光地に旅立っていく日本人達を見送る孤独の姿に歌舞伎の「俊寛」が
ダブって見えました。
さて、話は変わりますけど折角気持ちよく泣かせてもらっている一番良い場面で携帯の着メロ
が聞こえてきました。どうして一番良い場面で着メロって鳴るんでしょうねぇ。
まぁそこまではよくある話だから我慢もできます。携帯の持ち主も電話を切りました。
ついでに電源も切ってくれたらよかったんですが切らなかったんです。で、また着メロが鳴り
出しました。そしたらどこのおばはんかは知りませんが、携帯に出ちゃったんですよ。
私も芝居の最中に携帯出た人なんて初めてで、あきれてしまいました。舞台で松山さんが
セリフをしゃべってはるというのに後ろの方からも「はい、はい」なんて声がするんだから。
それにしても白髪で眼鏡を掛けた松山政路さん、先代の国太郎さんに似てきたなぁと思いま
した。2000年の11月ごろ、関西ローカルのテレビ局で古谷一行の金田一耕助シリーズの
「獄門島」の再放送やってまして、それに中村翫右衛門さんと国太郎さんが出ておられるのを
懐かしく拝見してたもんですから。国太郎さんは村長の役だったかな?
私の評価・・・とてもよかった

2月

題名・・・「仮名手本ハムレット」
作者・・・堤春恵
演出・・・末木利文
劇団・・・木山事務所
主演・・・内田稔
男性・とてもよかった=12%・よかった=42%・まあまあ=32%・よくなかった=14%
女性・とてもよかった=7%・よかった=38%・まあまあ=40%・よくなかった=15%

なかなか面白かったですね。何が面白いと言って私には幕内での人間関係が良く書き込まれて
いるところがです。借金の形で今にも潰れそうな新富座、それでもやはり腐っても鯛というべき
新富座で座頭になれるそれも日本初演のハムレットを演ずるとなれば旅回りの役者・市川薪蔵
にとってこの上もないチャンス。薪蔵一座での立女形・沢村源之助、本来ならオフィーリアの
役をするのが当然なのに、歌舞伎座からオフィーリア役に招かれた若女形の滝川芝鳥との
確執。源之助は立女形の役を横取りされた悔しさが、そして芝鳥の胸の内には歌舞伎座の
九代目団十郎の元にいれば大歌舞伎の一員ではあるが役が付かない、薪蔵とのハムレット
が成功すれば新富座での立女形の地位が約束されるかもしれないという野望。
普通は六段目のおかや等、老婆専門の役者がひょんなことからガートルードを演じることに
なったときの張り切りよう、初めは役が付かない筈だったのがまるで自分にガートルードの
代役が回ってくるのを見越していたような芳沢花紅。こんな幕内のどろどろした人間関係が
役者の生態を浮き上がらせて、さすが作者の堤春恵さんは明治期の歌舞伎の世界を研究
されていただけのことはあると感心させられてしまいます。
この芝居の中では花紅を演じておられた坂本長利さんが一番歌舞伎役者らしかったかな。
だって坂本さんの演じるおかや見てみたいなという気にさせられましたもの。
ちょっと残念だったのは源之助を演じる林次樹さん。源之助と言えばイメージ的には
お富さんのような粋でイナセなおネエさんなんかを得意にする役者なんですが、林さんからは
そういう臭いがしなかったんですよねぇ。しかしそういう味のある役者って、今の歌舞伎界
にだってあんまりいないから仕方ないですかね。
私の評価・・・よかった

1月

題名・・・「宗論・寝音曲・濯ぎ川」
作者・・・不詳
演出・・・不詳
劇団・・・茂山千五郎家
主演・・・茂山千之丞
男性・とてもよかった=51%・よかった=39%・まあまあ=9%・よくなかった=1%
女性・とてもよかった=69%・よかった=29%・まあまあ=2%・よくなかった=0%

なんと2年連続1月例会を欠席してしまいました。今年の欠席理由は例会の開催が平日の夜
だったからです。今評判の狂言ですし、なかなか普段は入ることのない京都観世会館だし、
行けなくて残念。とはいっても住居地・勤務地共に京都市内からは遠隔地なもんでして・・・。
2月からはちゃんと例会に出席いたします。
アンケート結果を見るとめちゃめちゃいいじゃないですか。うーん新劇通信簿と名前を付けて
いるのに狂言の結果が良いなんて、困ってしまいます。

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