新劇通信簿

2000年の例会(私のコメント付き)


1月2月4月5月7月9月10月

12月

演目・・・「裸足で散歩」
作者・・・ニール・サイモン
演出・・・小林裕
劇団・・・劇団NLT
主演・・・林智恵
男性・とてもよかった=7%・よかった=58%・まあまあ=23%・よくなかった=12%
女性・とてもよかった=15%・よかった=56%・まあまあ=25%・よくなかった=4%

一緒に観劇した友人は加藤健一のファンなもので彼女に言わせると今回のNLTの公演は加藤
健一に比べるとニール・サイモンの芝居なのに笑いが少ないってことでした。確かに爆笑の
連続と言うわけではありませんでしたが、ニール・サイモンはいつものようにほのぼのと
心をなごませてくれたことに違いはありません。この芝居のミソは主人公コリーの母と
屋根裏部屋の住人・ヴェラスコが恋をすることなんだろうなと思ったのです。私のように
すねた考えだと労演の会員の年齢層が高いからそれに合わせてこの芝居を選んだのかな
なんて思ったりして。それにしても相変わらず木村有里さん(コリーの母役)は可愛い方
ですよね。前回の「老嬢と毒薬」の時といい今回といい、魅力たっぷり。一度、木村有里さん
の演じるもの凄い悪女とかシリアスなお芝居も拝見してみたくなりました。
機関誌によると今回主役の林智恵さんは初めての旅公演であり初めての大役だそうです。どう
も声を潰してしまったようで、ちょっとセリフに聞きづらいところもありましたけれど、なか
なかチャーミングでした。とはいえ、電話工事人役の渡辺力さんや木村有里さん、池田勝さん
に随分サポートしてもらっているなという感じは残ってしまいましたが。
私の評価・・・よかった

10月

演目・・・「黄金色の夕暮れ」
作者・・・山田太一
演出・・・安井武
劇団・・・俳優座
主演・・・中野誠也
男性・とてもよかった=26%・よかった=56%・まあまあ=18%・よくなかった=0%
女性・とてもよかった=31%・よかった=61%・まあまあ=8%・よくなかった=0%

とある銀行の支店長の一家が巻き込まれる汚職事件をきっかけにバラバラだった家族が
一つになっていくというストーリーです。俳優座というと今までの経験から社会派の重い芝居が
多かったので、ついそんなんだったらちょっとしんどいなぁとは思っていたのですが、結構
軽めの喜劇でした。銀行の支店長の夫、重役の娘だった妻(川口敦子さんといい、岩崎
加根子さんといい俳優座の女優さんというのは上品さが自然体で素敵です)といういわゆる
中流階級で、明日の食べる物がないなんて苦労とはまるで無縁な生活を送っている感じです。
娘は理屈屋で親のコネで入った会社でOLとして働いているがどうも煙たがられている様子。
息子はロックに明け暮れていて就職する気のない大学4年生。それにお茶目なおばあちゃん。
そこに絡んでくるのが東京地検の検事とその娘。
やはり山田太一さんの作品だからTVドラマの乗りのように感じましたが、俳優座のこれから
の行く末を占う作品としてはおしゃれで良かったんじゃないでしょうか。今までの俳優座だと
肩に力が入りすぎ喜劇が喜劇に成らず空回りで、なんだか可愛そうになってしまったのです。
それはやっぱりブレヒト流とでもいうのでしょうか、どことなく演劇とは観客に社会の矛盾を
知らしめる物って姿勢を感じていたので、その呪縛からちょっと解き放たれてきたのでしょう
か。2000年は俳優座にとっても変革の年と言えるのかもしれません。
私の評価・・・まあまあ

9月

演目・・・「検察官」
作者・・・ニコライ・ゴーゴリ
演出・・・ベリャコーヴィチ
劇団・・・モスクワ・ユーゴザーバド劇場
主演・・・ワレリー・アファナシエフ
男性・とてもよかった=36%・よかった=39%・まあまあ=18%・よくなかった=7%
女性・とてもよかった=44%・よかった=34%・まあまあ=18%・よくなかった=4%

なんといってもロシア語の芝居ですから、イヤホンガイドがあるとはいえちょっと
不安でした。ところがストーリーは単純で、ロシア版吉本新喜劇とでもいえる
ようなものでしたから、結構楽しめました。簡単に粗筋を・・・
ペテルブルクで14等官という下級官僚のフレスタコフ。
この男仕事もせずにトランプばくちに明け暮れて親の仕送りをすってばかり。
とうとう親の住む田舎に帰ることになる。その途中の田舎町で検察官に間違え
られる。田舎町の市長や市長の取り巻きの官僚達は右往左往。
ロシアンジョークは天下一品ですもんね。そのロシアンジョークがお芝居に
なったと思っていただければ良いんじゃないでしょうか。それに役者さん達の
軽妙なお芝居、これで言葉がわかれば満点だったのに。ちょっと残念でした。
イヤホンガイドの解説はなかなか上手な役者さんでしたけれど何かがちょっと
違ったんですよね。
それにしても日本人が取り上げるロシアの演劇ってどうしてああ暗いのが好き
なんでしょうか、こんな面白い芝居があるのに。でもって、ロシアの芝居には
必ず自分たちの住んでいる土地が嫌で嫌で堪らないっていうところがあるのも
可笑しいですよね、田舎者コンプレックスがあるのかなロシア人には。
私の評価・・・よかった

7月

演目・・・「女殺油地獄」
作者・・・近松門左衛門
脚色・・・小池章太郎
演出・・・高木康夫
劇団・・・前進座
主演・・・嵐広也
男性・とてもよかった=36%・よかった=47%・まあまあ=14%・よくなかった=3%
女性・とてもよかった=47%・よかった=42%・まあまあ=10%・よくなかった=1%

歌舞伎については私の好みもあってちょっと口うるさくなってしまうかもしれません。
今回は歌舞伎というよりも戦前の日本映画の時代物を見ているようでした。主役の
与兵衛は最初から最後まで不満を抱え込んでいる青年のように見えました。もう少し
気持ちにゆとりを持って与兵衛という役に取り組めたらと残念でした。義父役の
志村智雄さんがすごく素晴らしく、この芝居をぐっと引き締めていたと思います。
そして、お吉役の今村文美さんはまさしく役通りの27歳の母親の雰囲気で安心して
拝見できました。前進座は歌舞伎を基礎にして芝居を作っておられるからでしょうか、
他の新劇の劇団が歌舞伎を取り上げるときのように何か違うと思わせるようなことも
なく、なんと言っても上手いのがいいですよね。
私の評価・・・よかった

5月

演目・・・「坂の上の家」
作者・・・松田正隆
演出・・・末木利文
劇団・・・木山事務所
主演・・・内田龍麿
男性・とてもよかった=32%・よかった=52%・まあまあ=14%・よくなかった=2%
女性・とてもよかった=35%・よかった=52%・まあまあ=12%・よくなかった=1%

長崎のある家族の日常が淡々と描かれているんですが、その中に長崎自身が
抱える原爆の傷が今もなお疼いていることを教えてくれた芝居です。
今まで色々な芝居を見てきましたけれど、これほど食事の場面が現れるのも
ちょっとないかもしれません。朝御飯、夕御飯の長崎ちゃんぽん、昼御飯の
そうめん等々、その食事のすべてがちゃんとテーブルの上に乗せられて役者
さんたちはちゃんと食べるんですから、セリフのタイミングと食べるタイミ
ングを合わせるというのはなかなか大変な作業じゃないんでしょうか。
田中実幸さんの持っている明るい雰囲気は貴重だと思います。今度はどんな
お芝居に挑戦されるのか楽しみな女優さんの一人です。
私の評価・・・よかった

4月

演目・・・「オットーと呼ばれる日本人」
作者・・・木下順二
演出・・・米倉斉加年
劇団・・・民芸
主演・・・三浦威
男性・とてもよかった=19%・よかった=44%・まあまあ=29%・よくなかった=8%
女性・とてもよかった=19%・よかった=42%・まあまあ=30%・よくなかった=9%

この芝居が始まって5分も経たない内に後ろの席からいびきが聞こえて
きました。これが前半ずーっとBGMとして続きましたけど、それも仕方がない
芝居だったかもしれません。私も後半のジョンスンとオットーの議論のシーンで
秘密兵器のブラックブラックガムの助けを借りてしまいましたもんね。
前回の「大司教の天井」といい米倉斉さんの演出は暗くて重くて眠い。
とはいえ、ひょっとするとこれが民芸での米倉斉さんの最後の演出だったかも
しれなかったんですよね。
後半オットーとジョンスンの議論の中でオットーが「日本とソ連と中国が手を
組んで新たな東亜共栄圏を建設しよう」とか言うセリフがあって、そこにこの
芝居が初演された頃(1962年)の思想が垣間見えたりして急にこの芝居が色
褪せて見えてしまいました。
中国・上海と日本を舞台にした日本史史上有名なスパイ事件の割りにあんまり
緊迫感がないように感じられたし、反日運動の中国人民の扱いもいかにも新
劇的パターンだし、もし米倉斉さんが外で演出するならこういう調子だと厳し
いかもしれないかなとちょっと心配です。
私の評価・・・よくなかった

2月

演目・・・「肝っ玉おっ母とその子供たち」
作者・・・ブレヒト
演出・・・アレクサンドル・マリーン
劇団・・・俳優座
主演・・・栗原小巻
男性・とてもよかった=5%・よかった=43%・まあまあ=38%・よくなかった=13%
女性・とてもよかった=11%・よかった=35%・まあまあ=41%・よくなかった=13%

「栗原小巻さんが肝っ玉おっ母をするようになったんだ。」というのが私の
一番最初の印象でした。どうも肝っ玉おっ母という言葉を聞くと「肝っ玉母
さん」の京塚昌子さんを思いだしてしまうのです。だからできればこの
「肝っ玉おっ母」という言葉を替えられないものかななんて思ってしまいます。
この芝居の前半はブレヒトの設定通り30年戦争時代の中世ヨーロッパ、
この部分では栗原小巻さんは野太い声をわざと出し、それでほとんど
出ずっぱりでしゃべり詰めでしたから声を潰さないかしらなんて思っていまし
た。
で、後半は現代の戦場に場所を移して小巻さんらしくなってきました。
演出のマリーンさんはロシア人ということで日常的に内戦が続いているロシア
に住んでいるからこそ設定を現代に転換させるという発想が持てるのだと納得
できました。戦場では女性であることも武器にしなければ生きていけない悲し
さが小巻さんの演技から溢れていて、良かったんじゃないでしょうか。
私の評価・・・よかった

1月

演目・・・「故郷」
作者・・・水上勉
脚本・・・八木柊一郎
演出・・・鈴木完一郎
劇団・・・文化座
主演・・・佐々木愛
男性・とてもよかった=26%・よかった=54%・まあまあ=20%・よくなかった=0%
女性・とてもよかった=38%・よかった=49%・まあまあ=12%・よくなかった=1%

残念ながら「故郷」のお芝居は見られませんでした。作者は水上勉、劇団は文
化座、脚本は八木柊一郎、演出は鈴木完一郎という顔合わせですから、本当
は見たかったんですが。だいたい私の感覚でいうと文化座のお芝居で"はず
れ"はないはずです。その上今回は珍しく外部からの演出鈴木完一郎でした
から興味がかきたてられない訳がありませんものね。
アンケートの結果も“よくなかった”がほとんどないという結果を見れば
なんとなくお芝居の良さが察せられませんでしょうか。
とはいえ、のっぴきならない友人との約束で花組芝居の「天守物語」に行って
しまいました。この友人とは花組芝居などを一緒に見るのですが、昨年お母
様を亡くされ、久々の観劇だったんです。そこで花組芝居を誘われたら断る
ことはできません。友人も私もそれなりに楽しめましたから、それで良しという
ことにしてしまいました。

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